男性ホルモン(テストステロン)の低下が原因で発症する病気の1つが、「男性更年期障害」とも言われている「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」。その症状から精神科や心療内科で「うつ病」と診断され、改善しないでいろいろクリニックをたらいまわしにされ、泌尿器科のメンズヘルス外来にたどり着く患者さんは少なくありません。

そのような患者さんの中には、うつ症状が改善しないからと、抗うつ薬を2、3種類も服用させられている人もいます。LOH症候群の場合は抗うつ薬があまり効かないのです。逆に、抗うつ薬を服用するとテストステロンの量が、ますます低下してしまいます。

このような患者さんには、筋肉量を上げる生活指導を行いながら、男性ホルモン補充療法も同時に行っていきます。すると、うつ状態は徐々に改善へ。その状態を診ながら抗うつ薬を減らしていくのです。すると、患者さんのうつ状態はどんどん改善し、最終的には抗うつ薬から離脱できます。

では、なぜ男性はテストステロンの低下に気付かないのか。女性の更年期は、閉経を期に女性ホルモンのエストロゲンがなくなって起こります。女性の身体にとっては大きなイベント。一方、男性ホルモンは20歳以降ゆっくりだらだらと低下するので、大きなイベントが起こりません。

男性ホルモンはいろんな生活習慣やストレスの影響を受けやすいホルモンです。特にストレスの影響が大きい。会社でストレスが大きくのしかかったときや、新型コロナで大きなストレスを感じている今は、LOH症候群は発症しやすいのです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。