腸内細菌によって作られる短鎖脂肪酸という物質が、健康な体づくりに有益な働きをしてくれるというトピックが近年注目を集めています。

白色脂肪細胞が細胞内に脂肪をため込むほど肥満になるのですが、短鎖脂肪酸のひとつである酢酸はこの白色脂肪細胞の肥大を抑える作用を持つため肥満解消に役立つと考えられています。

お酢などの食品から摂取した酢酸は分解が早いのに対し、腸内細菌が作った酢酸は徐々に放出され効果が持続します。つまり腸内を健やかに保つことはダイエットの観点からもマストと言えるのです。

腸は身体を守る最大の免疫系ですが、口から体内に侵入した病原細菌や異物から身を守る体制として腸管という免疫器官があり、さらにはこの腸管免疫の発達や働きを維持するために約100兆個の腸内細菌が重要な役割を担っているとされています。

腸内細菌には「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」が共存しており、善玉菌は前述した酢酸などを作るだけでなく、消化吸収の補助や老化防止に役立つ良い菌です。体に悪影響を及ぼす悪玉菌の暴走を抑える働きもあります。

日和見菌は健康な状態で何も悪さをしませんが、体が弱ると悪い働きに転じる菌なので、善玉菌が優位な腸内環境をつくることが理想です。これほど重要な腸内細菌のバランスに、ある種の歯周病菌が関与していることがわかってきました。

新潟大学の研究によると、マウスの口から歯周病菌を投与した後に確認されたさまざまな炎症反応などに加え、腸内細菌叢(そう)の乱れがわかったそうです。また、横浜市立大学の研究では、歯周病菌が大腸がんの発がんへ関与する可能性も明らかにされています。まさに口は、消化器の入り口。きれいに保つことは体の負担を減らす意味もあるのです。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。