患者さんから寄せられる相談のひとつに「自分の口臭が気になる」という訴えがあります。長引くマスク生活によって気になったという方が、多いのですが、意識の高まりに反して、口臭の原因や適切なケア方法については浸透していないと感じます。

起床時や空腹時に生じる「生理的口臭」、ニンニクやニラといった食べ物、飲酒や喫煙などで生じる「外因的口臭」は一過性ものですが、原因を見極めきちんと対処しなければならないのが、歯周病をはじめとする「病的口臭」です。中でも特に知っていただきたいのが、舌のケアの重要性です。

歯に付く歯垢(しこう)と同様に、舌にも「舌苔(ぜったい)」という汚れが付着します。唾液が潤沢に分泌されている状態では、食べかすや舌から剥がれ落ちた細胞は自然と流れていきますが、薬剤の影響やストレスなどで口が渇く場合は、こうした汚れが舌に定着しやすい環境を招きます。

舌苔は口臭の原因となるだけでなく、味覚にも影響を与えることがわかっています。味覚を感じる味蕾(みらい)という感覚器は、その半分が舌表面に存在します。味刺激が味蕾を通じて大脳の味覚中枢に伝わり、視覚や嗅覚、聴覚といった他の感覚とともに「おいしい」を感じる仕組みがあるため、舌を清潔に保つことは糖分や塩分の過剰摂取を防ぐ作用も期待できるのです。

比較的早期に出現する新型コロナの自覚症状として味覚障害も挙げられていますから、普段の手入れが命を守る一助にもなります。歯磨きの際には、鏡で舌を観察する習慣を。白く汚れているようであれば、舌専用ブラシやガーゼ等で奥から手前へ優しくなでてください。歯ブラシで無理に擦ると、粘膜を傷つける恐れがあるのでNGです。