うつ病治療に詳しい帝京大学医学部精神神経科学講座の功刀浩主任教授は「運動療法をうつ病治療や再発予防にとりいれている精神科医は日本では極めて少ないのが現状です」と話す。 「欧米でもうつ病の運動療法は糖尿病の運動療法などを参考にしているようです。ウオーキングは自宅でも手軽に行えるので、お気に入りのシューズを履いてみるなど工夫をしながら始めてほしい」

なぜ運動がいいのか。

「神経栄養因子というタンパク質が関係しています。これにはいくつかの種類があり、うつ病の治療や予防には、脳に多く発現している脳由来神経栄養因子(BDNF)が重要なのです」

功刀教授によれば抗うつ薬をネズミに持続して投与するとBDNFが脳の海馬で増えることがわかった。海馬は記憶をつかさどる領域以外にもストレスをコントロールする役割を担う大切なところだ。

「海馬はうつ病とも関連があります。抗うつ薬は一般的にはセロトニンなどの神経伝達物質を増やすことで効果があると考えられていますが、最近はBDNFを増やすことで海馬などを修復し、うつ病が治るという理解が広まっています。うつ病で亡くなった人の脳では、海馬でBDNFが減っていたという例が多いのです」

実際ストレスが慢性的にかかると海馬のBDNFが減ることが動物実験で確かめられている。ネズミを毎日狭い空間に閉じ込めるとBDNFが低下して、元気がなくなり、周囲への興味も示さなくなるのだ。