東洋大学陸上競技部長距離部門監督の酒井俊幸さんは自らの選手時代に痛感した食事の重要性について続ける。

「当初はケガが多く、体調不良を訴える選手が多かった。合宿で選手たちは毎日60~70キロもの距離を走りますが、それを可能にするコンディションを把握するという点では、走るフォームなどに加えて選手たちの表情や皮膚表面の張り、あるいは排便の状態、水分摂取量などさまざまな角度から選手を観察しています」と話す。

スポーツ栄養学に詳しい女子栄養大学の上西一弘教授の指導を取り入れる中でなにより食事をしっかり食べているか細心の注意を払う。

「摂取しているカロリー、肉や魚をちゃんと食べているか、品数を多く、毎日献立を変えながらの工夫も必要で、彩りもきれいだと選手たちが“食べたいな”と思えますから、そうした食事を出す。寮での提供は朝と夕なので自炊では何がいいかといった指導もします。その積み重ねで体調不良を訴える選手も減り、風邪をひきにくくなったことで免疫力もついてきました」

同時にメンタルへの配慮も不可欠だ。

「たとえば箱根駅伝という舞台は選手自身が目標としている大会ですごく緊張します。選手によっては耳が聞こえなくなった、走っている記憶がないというほどで、大会前には眠れなくなる、食事が食べられなくなる、あるいはしゃべれなくなってしまう。プレッシャーが身体にもあらわれるわけです」