生活習慣病の治療・予防のポイントは、生活習慣の見直し。しかし、生活習慣の改善を患者さんに口が酸っぱくなるほど話し、指導しても、患者さんは変わってくれません。たとえ習慣を改善できても、一時的で長続きしない。

これで悩むのは、私だけに限らず生活習慣病の治療に関わる医師はみな同じです。それを何とか打破できないかと考え、たどりついたのが「行動変容外来」。しかし、なかなかスタートが切れずにいたのです。

その背を押してくれたのが、他ならぬ生活習慣病の私の患者のA男さんの言葉でした。A男さんを診るようになって3年がたっていました。そんなある日の診察--。

A男さんに肥満とたばこのリスクをずっと説明してきましたが、ダイエットもしてくれない、たばこの本数さえも減らさない。

「説明時間が5分と1分、どちらか選べるとしたらどちらを選びますか?」。すると、A男さんは、「たばこや肥満のリスクは十分理解しているので、1分でお願いします」と。そこで私は、「どんな医師、どんな説明なら5分間聞きますか?」と聞きました。

A男さんは「“みのもんた”のような先生なら、話を聞いてもいいねー。みのさんに『こうすると健康になるよ』と言われると、やってみたくなるからねー」。

「私たちと“みのもんたさん”との違いは、方策を伝えるかどうかなのだ」と。その時、それに気付いてからは、患者1人1人の個人差や事情を考慮し、対応策を提示してあげることにしました。そして、16年、大学病院初の行動変容外来をオープンできたのです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆横山啓太郎(よこやま・けいたろう)1958年(昭33)生まれ。63歳。慈恵医大晴海トリトンクリニック所長。東京慈恵会医科大学卒。日本腎臓学会、日本透析学会でガイドライン策定の中心的な役割を演じ、薬物療法の効果と限界を痛感し、2016年(平28)に日本の大学病院で初めての行動変容外来設立。新しい試みを「健康をマネジメントする」などの著書で発信し、薬のみに頼らない健康メソッドを科学的に体系化している。21年から東京慈恵会医科大学大学院医学研究科健康科学教授も兼務。