生活習慣改善には、「患者さんの心に刺さる言葉が必要」です。これは、実際に私が「行動変容外来」で診療を行っていて、体験したことです。

その患者さんは体重100キロらいの肥満の方でした。「このままでは脳卒中を起こしますよ」とか、「あなたが医者だったら、どのようにしなさい、と言いますか?」と診察のたびに聞いていたのです。

ところが、一向に体重減少はみられませんでした。そこで、前述の言葉「どのように言われたら心に刺さりますか」と聞いたのです。「心筋梗塞と言ったらどうでしょう」と返事がありましたが、患者さんの表情はスッキリしませんでした。

そこから話を続けていったのです。そして、たどりついたのが「いずれ膝が悪くなる」と患者さんが提案。そして「膝が痛いのです」と。私は「それでいきましょう。まずは運動をして痩せましょう」とゴーサインを出しました。「肥満によって膝が痛くなる」の方が、患者さんにはイメージが湧くのです。

患者さんは、元気に歩けるようになるために、ウオーキングを習慣化し、ごく自然なダイエットを行いました。スマホに出る歩数をしっかりチェックされていました。すると、体重に変化がなかった患者さんが、半年で5キロ、1年で10キロのダイエットに成功しました。さらに、その体重をしっかり維持されています。

この患者さんが行動変容に成功したのは「膝の痛みの先」にあるリスクが強く心に刺さったからです。何より、患者さんが自分自身で提案したことでもありますから…。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)