クリニックを訪れる患者さんの中には「歯を白くしたい」という主訴で来院される方も少なくありません。「営業職なので口元をきれいに整えたいです」という男性も以前に比べると格段に増えています。

口というのは消化や免疫といった生命活動を維持する器官であると同時に、構音や発音、姿勢保持にも関わる場所です。また何より、その人が持つ雰囲気や表情をつかさどるという大切な役割を持っています。

アンチエイジングの観点からは、同じ年齢でも若々しく見える人と老けて見えてしまう人を決定づける要素には笑顔が鍵を握るといわれていますから、こうしたメリットが広く理解されていることで歯科のドアをたたく方も増えたのだなとうれしく感じる瞬間でもあります。

「笑い」が心や体に良い影響を与えていることはさまざまな観点から医学的にも実証されてきました。慢性関節リウマチの症状を緩和するために「笑い」を臨床に取り入れた日本医科大学名誉教授・故吉野槙一先生の研究によると、1時間の落語を聞いた前後で血液採取をしたところ、炎症の程度を示すIL-6(インターロイキン6)の顕著な減少が認められたとあります。

通常は大量のステロイド薬を使用しないとこうした効果が得られないにもかかわらず、落語で大笑いするだけで全員の痛みが軽減したことから「医師はただ薬を処方するだけでなく、精神面でのサポートが必要と痛感した」と述べられていました。まさに笑いが人の薬になるという、大変興味深い知見です。

ただでさえマスクで表情が乏しくなった私たちの生活から、笑顔という活力を奪う事件も日々起きています。つらい時、悲しい時こそにっこりと。患者さんに手鏡でご自身の歯を観察していただくよう話す理由は、こうした願いが根底にあります。