乳がんの発症リスクの高い人を連載2回目で紹介しました。そこであげた1つが「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の人」です。乳がんの約5%は「遺伝性乳がん」。その中でも代表的なのが「HBOC」なのです。「BRCA1」または「BRCA2」という遺伝子に変異がある人は、乳がんを発症しやすいことがわかっています。

遺伝子に変異があるか否かを知るために行うのが「遺伝学的検査」。血液を採取して行う検査で、20年4月に保険適用になりました。保険適用で検査が受けられるのは、現状では乳がん、卵巣がんを発症している人が対象です。保険適用でないときは、検査は自費ですから20万円程度かかっていました。それが保険適用になったことで6万5000円程度に。患者さんの中には「それでも高い!」と言う方もいらっしゃいます。

遺伝学的検査によって遺伝性乳がんとわかった場合、その方の乳がんの治療がいくつか変わってきます。第1は、薬物治療では遺伝性乳がんの人にだけ有効な治療薬があり、それが使えるようになります。第2は、乳がんになっている反対側の乳房や卵巣にもがんができる可能性が高いので、予防的に乳房や卵巣を切除することが保険でできます。患者さんにとっては大きなメリットです。

そして、第3はご家族に関して--。お子さんも同じ遺伝子を持っている確率が2分の1になるので、遺伝学検査を受けるか受けないかの選択ができます。検査を受けて遺伝子に変異のあることがわかると、そのお子さんはがん年齢になったら、専用メニューの検診を受けていくことが必要になります。ただ、人によっては遺伝子に変異があることを知りたくない人もいます。「知りたくない」という気持ちも尊重すべきだと思います。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)