乳がんの「局所治療」の基本は手術。その手術は、「乳房温存手術」と「乳房切除術」の2つの方法が行われています。今回は、乳房温存手術を紹介します。

乳房温存手術は、乳がんであるしこりを中心に、周囲の正常な乳腺組織を少しつけて部分的に乳房を切除します。乳房の一部分だけを切除するので、自分の乳房は残すことができます。残した乳房に対しては、放射線を照射することで乳房をすべて切除したときと同じ生存率になります。これは、80年代に米国とイタリアで行われた臨床試験の結果で報告されています。

ただし、乳房を温存するには条件があります。「がんをきちっと切除しても、乳房の形をある程度残せる場合」です。だから、通常はがんが3センチまでであれば、乳房温存手術はできます。ただし、しこりが3センチ以下でも温存できないケースがあります。乳房には乳管という母乳を運ぶ管があります。その乳管に沿ってがんが伸びていてがんの範囲が広いと、しこりが3センチ以下でも全摘になります。これは珍しいことではありません。また、乳頭(乳首)の近くや乳房の下半分にできたしこりの場合は、部分切除により変形しやすいので、しこりが小さくても乳房温存手術の良い対象とならないことがあります。

逆に、乳がんがある程度大きくても、手術前に薬物療法を行ってがんが小さくなり、乳管に沿ってがんが広がっていないタイプであれば、乳房温存手術を行えることもあります。生存率は温存でも全摘でも同じなので、「自分の胸を残したい」という方も、「全摘してきれいに再建したい」という方もいます。私は変形なく温存できるなら温存するといいと思いますが、やはり、メリット&デメリットがあります。ここは主治医と十分に話し合ってください。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)