がん治療の3本柱は「手術治療」「放射線療法」「薬物療法」。今、乳がんの薬物療法は著しく進歩しており、さまざまな薬が登場しています。

乳がんで薬物療法を行う場面は、2パターンあります。それは<1>「手術治療の前後で、再発を防ぐために薬を使う」<2>「再発してしまったときに治療として薬を使う」です。<1>の場合は、乳がんの完治を目指す治療です。<2>の場合は、残念ながら他の臓器にがんが転移してしまった場合で、完治は難しいのが現状です。だから、<2>の場合は完治を目指すのではなく、普通の生活をなるべく長く続けるための治療となります。

乳がんと一口に言っても実はいくつかのタイプに分かれ、タイプによって性質や効く薬も違うことが分かってきています(タイプ分けの詳細は後日説明します)。乳がんのタイプはがん組織を採って顕微鏡で調べることでわかります。

抗がん薬が効きやすい乳がんのタイプでは、手術の前に抗がん薬を使う場合があります。同じ薬であれば、術前に使っても術後に使っても生存率は同じなので、どちらで使ってもいいのですが、手術前に使うことでいくつかのメリットがあるので、今は手術前にお勧めすることが多いです。メリットの1つ目は、しこりがあるうちに使うことで、がんに対する薬の直接の効果がわかるということ。2つ目は、しこりが消えてしまっていると再発率が低くなるので、あとの治療は軽くすみます。3つ目は、術前の薬物療法でがんが消えてしまわなかった場合には、術後に違う薬を使うことで生存率がよくなります。

1-2期の乳がんは手術だけで7~8割は治りますが、薬を使うことで治る割合はさらにアップ。乳がんの治療には薬物療法をうまく組み合わせて使うことが重要です。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)