「忘れることは悪いこと」と思っていませんか。

ぼくたちは子どものころから忘れないように仕込まれてきました。小学校ではときどき持ち物チェックがあって、ハンカチなどの忘れ物があると注意されました。中学校や高校では、歴史の年号や元素記号の順番など、語呂合わせをして必死に覚えました。暗記ものが苦手なぼくには、まさに悪夢でした。

でも、人生で忘れてはいけないことなんて、どれほどあるのでしょうか?

<自由に生きるために、積極的に忘れる>

人間の記憶の過程には、情報を覚える「記銘」、情報を覚えておく「保持」、情報を思い出す「想起」、そして、忘れる「忘却」という流れがあります。せっかく覚えた情報も、必要がなければいつの間にか忘却されます。人の脳は、忘れていいことは忘れるようにできていると言い換えることもできます。

古くなった常識や形骸化した習慣、人間関係のしがらみ、自分の自由を奪う思い込み、負の感情……。これらを積極的に忘れられれば、ぼくたちはもっと生きやすくなるのではないでしょうか。

そんな忘れることの大切さを『60歳からの「忘れる力」』(幻冬舎)に書きました。退屈な毎日から脱し、人生の時間を新たな気持ちで過ごすためにも、忘れていいことは忘れる勇気をもってほしいと思っています。

「忘れる力」が、心を軽やかにし、滞っていた人生を好転させてくれるはずです。(医師で作家・鎌田實)