私は「肺がんのロボット手術」を始めて、今年で14年になります。患者さんからは、手術を通していろんなことを教えてもらっています。そんな多くの患者さんの中で、忘れられない患者さんを1人あげると、20代のA子さんです。
A子さんは、他院で受けた検診で「胸部の異常陰影」を指摘されました。主治医は、A子さんが20代の女性なので、肺がんはゼロではないが、それを強くは疑ってはいませんでした。そして、半年後に再検を行うと、大きな変化が見られたことで、その主治医はすぐに私を紹介され、A子さんは2023年に受診されました。
CT検査、PET検査をし、右の下葉にがんがあり、リンパ節に転移の疑いがありました。A子さんと話し合って手術を行うことに-。下葉を切除すると共に、手術中に肺の中のリンパ節と縦隔リンパ節の両方を切除。縦隔リンパ節にまで転移していたのです。A子さんのステージは3A期。術後、抗がん剤治療を提案しました。
その話し合いの時に、A子さんはパートナーと一緒に来られ、「将来的に妊娠を希望したい。だから、卵子を凍結したいのです」、と話されました。私たち医師グループで話し合って担当医に卵子を採ってもらい、その後、抗がん剤治療を始めました。治療時にはいつも独歩で通院されていました。
A子さんの状態は少なくとも5年間は見る必要があり、OKとなれば、保存してある卵子を使った体外受精も可能になると思っています。ただ、腺がんの3A期の5年生存率は約30%です。厳しいことは厳しいですが、遠隔転移がなかったので何としても完治の喜びを体験し、お子さんを授かってほしい、と心から願っています。(医学ジャーナリスト 松井宏夫)

