【宇良の世界(前編)】語らない理由と理想の相撲「気持ちは棒銀、型は四間飛車で」

宇良(33=木瀬)は、多彩な技で観客を沸かせ続けています。

そんな宇良には独特の世界観があります。本場所中は多くを語りません。なぜでしょうか。

連載「宇良の世界」では、宇良の相撲や、生き方や考え方に少しだけ迫ります。「前編」では、宇良の相撲への考えを聞きました。

大相撲

◆宇良和輝(うら・かずき)本名同じ。1992年6月22日生まれ、大阪府寝屋川市出身。4歳で相撲を始め、中学時代はレスリングに転向。京都・鳥羽高で相撲を再開し、関西学院大に進学。2011年全国学生個人体重別選手権65キロ級で優勝、13年世界コンバットゲームスの相撲軽量級金メダル。木瀬部屋に入門し、15年春場所初土俵。16年夏場所新十両、17年春場所新入幕。右膝の負傷により、一時は序二段まで番付を落としたが、幕内に復帰。24年初場所新小結。172センチ、139キロ。

ほぼ「分かりません」

実況アナウンサーが、宇良の動きについていけない。そんな場面は、珍しくない。

例えば3月の春場所中日8日目。宇良は狼雅に勝った。豪快な土俵際だった。押し込まれながらも、体を弓なりに反らせて投げた。観客は大喜びで、宇良は大歓声を浴びた。

宇良は土俵際の下手投げで狼雅を下した(2026年3月15日撮影)

宇良は土俵際の下手投げで狼雅を下した(2026年3月15日撮影)

この動きは、アナウンサーの判断を狂わせた。NHKは「反った~、居反りを決めました宇良」「宇良の反り技が出ました」と実況し、ABEMAは「すくい投げ。宇良の勝ち。右からすくいました宇良」。会場では「下手投げ」とアナウンスされた。

実況泣かせでもあり、インタビュアー泣かせでもある。取組を振り返る質問はほぼ「分かりません」。NHKのアナウンサーは、あの手この手で宇良のコメントを引きだそうとする。宇良は表情を変えず、多くは語らない。

ファンはそんなやりとりを、微笑ましく見守っている。

私はいつか、宇良に真意を聞いてみたかった。コメントすれば、相手に攻略のヒントを与えかねない。勝負師ゆえに、手の内をわずかでも明かしたくないのだろう。私は、そう想像していた。

「強いて言うなら…」

宇良に、率直に聞いたのは、2025年の春巡業でのこと。今回は、その1年後に補足で聞いたことも含めて、記事にまとめた。

―取組後に相撲のことについてあまり話したくない理由は何ですか

宇良「話したくない理由ですか…。話す必要はないって思ってるからです」

―どうしてですか

宇良「どうして…。そういう話をするのは、あんま好きじゃない。そうそう、好きじゃない」

―例えば宇良関は、ほかのスポーツを見た時に、どういう狙いであのプレーをしたのか、知りたいと思いませんか

宇良「ほかのスポーツですか。分からないから、ないですね」

―例えば、プロ野球のヒーローインタビューで選手が答えてくれると、ファンはうれしいと思います。別に宇良関を責めてるわけじゃないですよ

宇良「いやいや、責められてるとも思ってないですけど」

宇良(右)は伝え反りで高安を破る(2025年5月21日撮影)

宇良(右)は伝え反りで高安を破る(2025年5月21日撮影)

―何か考えがあれば知りたいです

宇良「考えはないです。好きじゃないです。相撲のことを話すのが」

―作戦面など、見透かされるのが嫌なのかと思っていました

宇良「それは違います。強いて言うなら、まだ自分の相撲が完成しているわけじゃないんで。相撲の理論とか、そういうのは自分が分かってないんですよ」

―道を極めようとしている人には、難しい問題ですね

宇良「分かんないからこそ、あんま言いたくないんですよ」

―幕内は大相撲の中で最高のレベルです。そこで戦っている人が言うことなら、誰も「分かってないな」なんて思わないですけど

宇良「僕がそう思っているだけで、周りがそう思ってないとしても、それはそれでいいんじゃないですか」

―そうですね

宇良「ほかのスポーツ選手のインタビューでも、全部本当のことを言っているとは思って聞いてないです」

―対戦の前日に相手のビデオは見たりしますか

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。