弥彦酒造/弥彦村
製造責任者であり、営業も手がける大井専務

 蔵の姿勢を、この酒が物語っている。「弥彦愛国 純米吟醸」。「瓶とキャップ以外すべて弥彦産です」と製造責任者の大井源一郎専務。原料米は幻の酒米「愛国」。「亀の尾」「神力」とともにジャポニカ米の3大品種といわれる古代米で、その種もみから地元農家が復活させた。酵母は弥彦山上に1本自生する弥彦桜の清酒酵母を農大の門倉利守先生が3年かけて分離。ラベルは地元施設の生徒たちが牛乳パックをすいて作り、文字は弥彦在住の書家、田中藍堂さんが手書きしている。同じラベルは2枚とない。

 弥彦酒造や地元酒販店など、さまざまな立場の人たちがプロジェクトを立ち上げ、4年かけて誕生した酒だ。野生酵母を使っているため「酒母の泡の出方もワイルドですよ」と大井さん。仕上がった酒は「酸があって甘めで広がりがあり、キレがある味わい」。

 1838年(天保9)創業の弥彦酒造は、上泉の地名から「泉流」という独自の酒造法を編み出し、野積杜氏(とうじ)の養成学校の役割を果たしてきた。大井さんは2000年(平12)に別業界からこの蔵に入った。2人の名杜氏に師事するとともに新潟清酒学校で学び、製造責任者に。泉流の「多くの石数を造らず、必ず精醸を期す」の精神を受け継ぎながら、独自の考えで弥彦酒造の酒を確立してきた。

 現在、女性を含め5人の社員全員が1級酒造技能士の資格をもち、全員が酒造りの全工程を担当できる。蔵人の夏場の仕事を生み出すため、10年前からジェラートも手がけ、地元産の越後姫、弥彦娘(枝豆)、巨峰の3大特産品を使ったものなど12種類を製造している。

 山田錦も地元で栽培し、弥彦産へのこだわりはとどまるところを知らない。同時に大切にしているのがボトムアップだ。最も多く飲まれる普通酒のレベルを上げるため、新たに5本のサーマルタンクを導入し0度で貯蔵している。小さな蔵だからこそ「大手ができないことをやるべき」との思いがある。弥彦の地を訪ね、ここでしか造れない、本物の地酒を味わおう。【高橋真理子】

[2016年3月19日付 日刊スポーツ新潟版掲載]