今春のセンバツでサイン盗み疑惑が大騒動になり、選手のマナーがクローズアップされるようになった。「令和最初の甲子園」に変化はあるのか。

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101回目を迎えた伝統ある夏の甲子園で、今までにない光景があった。バックネット下の関係者室で大会本部の部員が複数名、グラウンドに視線を注いでいる。サイン盗みなどマナー違反がないか、全試合でチェックを続けている。

平成最後の甲子園だった今春のセンバツでは、星稜(石川)が習志野(千葉)のサイン盗み行為を疑い、試合中に抗議。試合後には監督が直接、相手の部屋に乗り込んで抗議したことが物議を醸した。大きく報道され、各高野連や全国の加盟校、指導者、そして選手にとっては、高校野球の基本理念の1つである「フェアプレー」の意義を再確認する機会になった。

「数年後に振り返った時、あれが転換点、いいきっかけだったと言えるように私たちは今、やっています。ちょうど令和に時代も変わりましたしね」。

大会審判副委員長の窪田哲之氏(62)はそう力を込めた。抽選会後の監督会議ではサイン盗み行為の厳禁を促すとともに「勝ちたいがためのアンフェアなプレーはもうやめましょう。高校野球からなくしましょう」と監督たちに伝えた。

センバツの騒動から4カ月。現場の意識は確実に変わっているようだ。大会7日目(12日)の夜、各都道府県から応援で派遣された審判員が大阪市内に集まり、恒例の反省・報告会が開かれた。マナー面で改善されているという意見が多かった。二塁走者のまぎらわしい動きは、センバツから明らかに減ったという。

「実際の内情は分かりませんが、各選手が気をつけてやってくれているように見える。選手が、これはダメな行為なんだと思うことが大事。そうして次の1年生に引き継がれていってほしい」と窪田氏はうなずく。例年以上にマナーの好例が報告された。

高野連や審判が考えるマナーの定義は細かい。よけたように見せかけて死球をもらいにいく、打者が捕手の送球を妨げるような動きをする、バントの構えで捕手の捕球を邪魔する、野手が走者の視界に入って打球判断をしにくくする…。これまで「技術」とされていた行為も注意対象。マナーの境界線を積極的に周知するようにしている。

日本高野連の元事務局長、田名部和裕理事(73)も時代の移り変わりを感じている。「サイン盗みなんてものは甲子園に持ち込んだら絶対にダメです。フェアプレーにもいろいろある。指導者の皆さんは『お、それいいじゃないか』とどんどん言ってあげてほしい。選手には相手を尊敬する気持ちを持って、フェアプレーをいろんな場面でやってほしい」と令和球児に期待している。【柏原誠】