16強が出そろい、すでに33校が甲子園を去った。甲子園での戦いを終え、監督は最後に選手たちへどんな言葉を残すのか。2回戦で海星に2-3で敗戦した聖光学院・斎藤智也監督(56)による最後のミーティングはこうだった。

「残念だったな。納得しているか? やりきったか? 負けてどれだけ納得できるか、と考えると納得に近い試合だったな。今年の歩みを振り返ると、俺の中では一番思い出深いチームだ。一生懸命練習をしたな。これほど朝練習をしたチームはない。散歩でもゴミ拾いをやった。どこかで心を磨こうとしていた。甲子園に行くことだけを考えて、自分だけが目立てばいい、という思いを全部捨ててチームのことを考えるヤツが増えていったな。それを一燈照隅って言うんだ。1人の人間はちっぽけだけど、1つの灯火が周りを照らす。それができるようになったから甲子園はご褒美だ。もちろんそこには勝つことも要求される。でも、力がなかったのは事実。でも、お前たちが個人主義から一燈照隅になったこと。俺は、何よりもお前らのここまでの歩みを評価したい。

2年連続で初戦敗退はすごく苦しい。でも、聖光学院の野球は終わったか? はつらつとしていて、食らいつくような聖光学院は終わったか? そういう終わり方はしなかっただろ? お前ら、かっこ悪くなかったぞ。俺は満足している。勝たせられなかったのは俺の責任だ。お前らはよく頑張った。ごくろうさん」

13年連続甲子園出場。福島では絶対王者だが、今年は順風満帆ではなかった。ライバル校が増え、選手たちには連覇の重みがのしかかった。春の県大会は2回戦敗退。0からの再スタートを切り甲子園を手にした。斎藤監督は「勝たなければいけない苦しみを乗り越えて、弱さを謙虚に受け止めてはい上がってきたチーム。その姿はひたむきだった」と振り返る。それは、弱かった頃のチームと重なる。「鈍くても、泥くさくても。久しぶりに原点に戻った感じがするよね」。目の前で泣きじゃくる選手たちを見て、斎藤監督はあたたかな笑みを浮かべた。

前報徳学園監督で02年センバツで全国制覇を成し遂げ、現在高校日本代表の永田裕治監督は、最後のミーティングではこれからの人生について説くことが大切、と話す。「まずは、よう付いてきてくれた。頑張ったと話します。でも、選手たちは残り半年の高校生活はもちろん、これからの人生の方が長いですから」。かつて、池田の故蔦文也監督は最後のミーティングで「日本一を目指せと言ってきた。日本一はとれなかったけど、人生はこれから。敗者復活戦や。敗者復活戦でチャンピオンになれ」と話したという。永田監督は「高校野球はたった2年半。人生の上で頑張れ、と話しますね」と送り出す指導者の思いを込める。

最後のミーティングでは、厳しかった監督が初めて口にする優しい言葉もあるだろう。それまでの指導の意味を説く答え合わせ。いずれにしても、すべての戦いを終え、初めて吐き出す監督の本音には、あふれんばかりの愛情が込められていた。【保坂淑子】

清水主将(左)の頭をなでる斎藤監督(撮影・保坂淑子)
清水主将(左)の頭をなでる斎藤監督(撮影・保坂淑子)