特別編として、数十年来の親交がある俳優石坂浩二(79)と小谷正勝氏(75)の対談を3回で送ります。阪神ファン歴約60年の名優と、50年間プロ野球界に携わった名伯楽。小谷氏がホスト役となり、独特の視点で「プロ野球」を語り合いました。(敬称略)

ポーズを決める小谷正勝氏と石坂浩二氏(撮影・久保賢吾)
ポーズを決める小谷正勝氏と石坂浩二氏(撮影・久保賢吾)

小谷 私から質問させていただきます。プロ野球に興味を持たれたのは、いつ頃ですか?

石坂 別当(薫)さんが阪神にいかれた時から。だから、僕が小学生の時ですね。

小谷 別当さんを好きになった理由は?

石坂 見てて潔いんですよね。もう打つ時はバシンと打つんですけど、ダメな時は全くダメで。でも、スッと打席に立った時の形が良かったんですよ。

小谷 シルエットですか。大事ですよね。どんな選手に感動を受けますか。

石坂 1つは年齢を感じさせないというか、30代後半になってから本当に力を出す選手は、すごいなって。ボクシングとかでもそうですけど、やっぱり野球も、何か頭のいい、悪いってあると思うんですよ。

小谷 プロに入る選手には感性とか感受性って、あるんですけど。特に感受性は年を取らないと出てこないです。

石坂 実っていくのは30歳を過ぎてからだと思うんです。備わってくると、三振してもいいんですよ。三振の仕方がいいというか。三振の仕方ってありますよね。一番嫌なのは、1度も振らない。これはどうしようもないんで。最後に見逃すのは、それまでの配球がありますよね。3球目じゃなくて、7球目か8球目ぐらいまで粘ったのに、最後に見逃した時の悔しそうな顔を見ると、読みが外れたんだと。そういうのが面白いですよね。

小谷 面白いですね。プロのような専門的な見方をされますね。

48年、大阪タイガース別当薫
48年、大阪タイガース別当薫
49年6月、大阪別当薫
49年6月、大阪別当薫

今年は新型コロナウイルスの影響で、プロ野球の観戦も新様式が求められた。「プロ野球の見方」に話は移った。

小谷 僕はテレビを見る時は音声を消して見るんですよ。

石坂 何となく、分かります。実況が「ここはバントで送られると嫌な場面」なんて言うと「本当かよ」って思っちゃいます。

小谷 野球を見る人がどういうものを要求しているかですよね。

石坂 相撲の中継を見たらいいと思いますよ。言わないですよね、上手を取ったなんていうのは。私は表情を見ます。

小谷 表情ですか。

石坂 調子のいい時と悪い時の顔って、出てきた時に違うと思うんですよ。

小谷 ほぅ。自分では、分かりませんけどね。

石坂 あれ? って思った時は案の定、打たれるんです。

小谷 結局、思ったところに放れませんから。思うところに放れるのって、年間50試合中、3試合ほど。

石坂 完封した人とかって出てきた時から顔が違うんですよ。「オレの球は打てないだろう」みたいな。それができるなら、芝居したらいいのに。

小谷 「これは」って、思った試合はありますか。

石坂 巨人の菅野君が投げた10月24日の阪神戦は、最初マウンドに上がった時に少し緩い顔をしてるなと。

小谷 今日は調子が悪いって感じたんですか?

石坂 いえ。一瞬、なめてるのかなと感じたんですけど調子がそんなに良くなかった。

小谷 なかなか石坂さんのような見方をされる人はいませんね。

10月24日、阪神戦で原口に中前適時打を許し表情をなくす菅野
10月24日、阪神戦で原口に中前適時打を許し表情をなくす菅野

石坂 その他にも、選手の呼吸なんかも見れば面白いですよ。

小谷 呼吸ですか? どういうことでしょう。

石坂 ピッチャーがセットに入る時に息を吐くじゃないですか。息を吐くと、吸わなきゃいけないでしょ。要するに、生きるために危機感がくる。息を吸うことに気持ちがいくから「無」というか、集中する。

小谷 呼吸なんて、意識したことがなかったです。

石坂 投手も投げるまで、打者も打つまでは息を止めてるんじゃないかと。集中しますから。

小谷 昔、巨人の中島宏之は投手に呼吸を見られないよう構えてる時は口元を隠してたと聞いたことがあります。

石坂 例えば、役者の世界では「演技する時は、口を少し開けた方がいいよ」と言われたことがあります。その方が表情が出ると。口を閉めてると自由がきかなくなる。

小谷 いろんな考え方がありますね。昔、野村克也さんがよく言ってたのは「感性を磨くなら、歌舞伎をみろ」と。

石坂 プロ野球選手って、動の世界に生きている人ですから、僕は静の世界を見た方がいいんじゃないかと。映画とか演劇とか動きのあるものよりも、仏像とか、刀とか。動かないものを見極めることが大事なんじゃないですか。

小谷 対極のものを、ということですか。表情や呼吸、選手の細かな動きに目を向ければ、野球を見るのが楽しくなっていくかもしれませんね。(つづく)【取材・構成=久保賢吾】

投球動作しながら、対談する小谷正勝氏と石坂浩二氏(撮影・久保賢吾)
投球動作しながら、対談する小谷正勝氏と石坂浩二氏(撮影・久保賢吾)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチ、13年からロッテ。17年から昨季まで再び巨人でコーチを務め、多くの名投手を育てた。

◆石坂浩二(いしざか・こうじ)1941年(昭16)6月20日、東京生まれ。慶大卒。劇団四季で演技を磨き、映画、ドラマの出演多数。多趣味でも知られ、絵画では二科展に入選歴があり、プラモデル製作はプロ級。料理、特にカレーライスの腕前も有名。野球は大の阪神ファン。