日本中に熱狂を与えてきたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が、史上初めて動画配信サービスNetflix(ネットフリックス)による国内独占配信という新たな局面を迎える。エンターテインメントに特化してきた巨人が、なぜ今、筋書きのない「ライブスポーツ」に命運を懸けるのか。背景にあるのはプラットフォームの成長と、放映権料高騰による地上波放送消滅という構造変化があった。その舞台裏に前後編で迫る。

◇    ◇    ◇

日本でコンテンツ制作の陣頭指揮を執るNetflix坂本和隆コンテンツ・バイスプレジデント(43)は「11年前、私が入社した当時、Netflixにとってスポーツや音楽は最も遠い分野でした」と振り返る。その言葉には、一企業の成長を超えた時代のうねりが凝縮されている。かつて創設者リード・ヘイスティングス氏は「スポーツと音楽の優先順位は低い」と明言していた。映画やドラマという「作り込まれたフィクション」のストックこそが、世界を制する鍵だと信じられていたからだ。

だが、Netflixの会員数が1億、2億、そして3億2500万世帯を突破する中で、戦略は劇的な変化を遂げた。多様化するユーザーの期待に応えるためには、アーカイブされた物語だけでなく、「今、この瞬間」にしか生まれない熱狂が必要になったのだ。坂本氏は「世帯数の広がりで、選択肢の自由と多様性が重要になってきた。これまで踏み込めていなかった音楽やスポーツに力を入れ始めたのが、3、4年前からですね。ニーズが多いからこそ届けたいという自然な形です」。その象徴がWBCの国内独占配信だった。

坂本氏にはもう一つの顔がある。かつて高校野球で、泥にまみれて白球を追っていた。「小学生の頃の夢はプロ野球選手でした。両親に楽をさせてやりたいと、本気で思っていました」と懐かしんだ。日大三や早実といった強豪がひしめく西東京地区で、サード、そしてキャッチャーとして五分刈りで青春をささげた。その経験が今の仕事に血肉となって生きている。「選手の気持ち、現場の距離感。それは理屈ではなく肌感覚で分かります。だからこそ、ドキュメンタリーを撮るにしても、ベンチ裏のミーティングにまでカメラを入れる。そこにある本当の熱量を届けたい。野球選手になるより、この裏側に携われることが何よりの誇りです」と力を込めた。

単なる試合中継ではなく、エンターテインメントのプロとして、スポーツを「究極の筋書きのないドラマ」として再定義する。「日本最大級のイベントであるということは我々も十分に理解しています。1週間後の景色、2週間後にはどういう景色が日本中にあるのか全く読めない。その分きっちりと、最大限サポートしていく体制が重要だと思っています」と口元を引き締めた。「配信の壁」を打破するためのさまざまな施策を打つ。Netflixの挑戦は日本のスポーツビジネスに何をもたらすのか-。【鳥谷越直子】(つづく)

Netflixが開催した合同インタビューにオンラインで参加したアンバサダーの俳優渡辺謙
Netflixが開催した合同インタビューにオンラインで参加したアンバサダーの俳優渡辺謙
【イラスト】侍ジャパンの日程
【イラスト】侍ジャパンの日程
【イラスト】侍ジャパン26年の主な日程
【イラスト】侍ジャパン26年の主な日程