仕事でミスをして上司に叱られた。翌日、気を取り直して会社に向かったら自転車で転んでちょっとケガをした。そんなとき普通はどう思うか。「ついてないな」。古い関西弁で言えば「インケツやな」とか思う。それが普通だろう。

しかし木浪聖也は違う。「ついてるな。そう思ってました」。連敗を止めた西武戦の後、胸を張って木浪は話した。どういうことか。

この日の試合前、少しヒヤリとする場面があった。守備練習でノックを受けていた木浪の顔面左側に打球が当たったのだ。ゴロがイレギュラーバウンド。練習を中断し、アイシング治療を行い、再びグラウンドに出てきた。テレビ観戦していた方は左目の下が少し内出血し、腫れている木浪の様子が分かったのではないだろうか。

前日20日の楽天戦。三塁走者だった木浪は同点チャンスの三ゴロでホームへ突入できず、敗戦。指揮官・矢野燿大からテレビに映るのも気に掛けない“公開説教”を受けた。その後、ベンチの前に陣取って懸命に声を出していたが少し涙目になっていた。

感極まって泣くことはたまにはあるが叱られて目を潤ませるのはプロではめずらしい光景だ。ルーキーだが試合に出ている以上、言い訳は聞かない。情けなく、悔しい。そんな1日となってしまった。

「なかなか寝つけなかったですよ。きのうの夜は。でも朝起きたら気分も変わっていて。切り替えなきゃしょうがないな、と思って球場に来たんです。そうしたら顔にボールが当たったんで。昨日のバチかな」

そこまで話した木浪に「ついてないなと思ったのか?」と聞いた。そこで出てきた答えが「いろいろあってついてるなと思いましたよ。ついてないと思ったらそこまでなんで」だった。

サラリーマンの定年のあいさつなどで「ここまで大過なく過ごし…」などとよく言うがプロ野球はそれでは困る。成功場面ばかりなら言うことはないが、ミスや失敗、目の前が真っ暗になるようなことを経験してからの活躍があってこそ観客の心を揺さぶる。だから例え、マイナスの出来事でもいろいろと自分の身に起こるのは悪くないという木浪の考えは、正しい。

自分を奮い立たせて出場した試合で左足スネに死球も受けた。安打も打った。そして勝った。木浪はいい笑顔を浮かべていた。(敬称略)

阪神対西武 2回裏阪神無死、木浪は右前打を放つ(撮影・上山淳一)
阪神対西武 2回裏阪神無死、木浪は右前打を放つ(撮影・上山淳一)