勝手な見方だが1回で流れが決まったのでは、と思う。今季初登板の岩田稔は強力DeNA打線相手に1回、1死満塁のピンチをつくった。いきなりビッグイニングになってしまう恐怖を感じながら宮崎敏郎を三ゴロ併殺に切って、しのいだ。結局、5回3失点で勝利投手にはなれなかったがベテランの執念のようなものは感じた。そんな粘りに引っ張られた勝利だったのではないか。

「1型糖尿病」を持ちながら普通の社会生活どころかプロ野球選手として岩田はこれだけ長い間、活動している。「常に“これで最後かも”と思って投げてるみたいやな」。岩田のそんな覚悟を聞いたのは関大の大先輩で師匠格でもある山口高志からだ。

病気と共存しながらプロ生活を続ける選手もいれば、それで夢を絶たれる選手もいる。ちょうど1年前の19年9月22日、引退会見を行ったのは横田慎太郎だった。指揮官・金本知憲の下で売り出し中だった17年に脳腫瘍を発症。1年半の闘病を経て復帰したものの球が二重に見えるなどの後遺症があり、現役を断念したのだ。

「小さいときから野球しかしてこず、病気になってユニホームは脱ぎますが最後にプロ野球という世界で野球ができて。しかも阪神タイガースという素晴らしい球団で野球をやらせてもらって、本当に感謝の言葉しかありません」

横田が涙でそう語った昨年22日はこの日と同じDeNAとの対戦だった。その会見で仲のいい先輩として花束を渡し、試合でヒットを放った高山俊は試合後、こちらにこう話した。

「やっていて苦しいこともありますけど野球をやれない横田に比べれば幸せだと思います。きょう、打てて良かったです」

その高山は現在、2軍にいる。プロは甘くない。生きていくための仕事だから当然だ。それでも仕事だからこそ、プロの生活には覚悟と感謝の気持ちが必要だと思う。なりたくてもなれない、続けたくても続けられない仲間のことを思い、自身が選手になったときの喜びを思い出せば、まだまだやれるだろう。

甲子園もこの日から観衆制限が緩和され、1万1384人が入った。少しずつ球場の風景も戻ってきた。異例の120試合制である今季も2/3が過ぎた。阪神はあと41試合。その全てでこの日のように粘りのある試合を見せてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

19年9月22日、引退会見を終え記者団の質問で感極まり涙する横田
19年9月22日、引退会見を終え記者団の質問で感極まり涙する横田