日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」が、構造的に公認野球規則の定めを満たしていない問題が浮上しました。本塁からバックネット側フェンスまでの距離が約15メートル。これが、60フィート(18・3メートル)以上を必要とする同規則に抵触するとの指摘がありました。

では、個性的な球場が多い大リーグはどうでしょうか? 実情は「60フィート」の規則をクリアするのは30球場中、3分の1もないようです。むしろ、ファンサービスの一環として、競うようにして観客席からダイヤモンドまでの距離を近づけています。その流れが加速したのが、2000年以降の新球場です。

最たるものがレンジャーズ本拠地、20年に開場したグローブライフフィールド(GLF)です。設計時から名選手の背番号にちなんだ数字を球場各所にちりばめ、本塁からバックネットまでは初の黒人メジャー、ジャッキー・ロビンソンにちなみ、全30球場で最短の42フィート(約12・8メートル)です。また球場改装により、ドジャース本拠地で以前は75フィートあったドジャースタジアムも今は55フィート。レッドソックス本拠地で現存する最古の球場フェンウェイパークも51フィートになりました。

確認したところ、マリナーズ本拠地のTモバイルパークが最長の69フィート(約21メートル)です。他では、大谷翔平投手(28)が所属するエンゼルスの本拠地エンゼルスタジアム、ガーディアンズの本拠地プログレッシブフィールド、ホワイトソックスの本拠地ギャランティード・レートフィールド、アスレチックスの本拠地オークランドコロシアム、ブルージェイズ本拠地ロジャースセンター、カブス本拠地のリグリーフィールドの6球場がほぼ60フィート。タイガースの本拠地コメリカパークなど4球場のデータは不明ですが、いずれも00年以降にできた新様式のスタジアム。本塁まで「60フィート以上」の規則を満たすのはおそらく、上記7球場を含めても2ケタに届かないでしょう。

日本の公認野球規則は米国の公式規則を翻訳したものとされます。内容は日米共通と思われそうですが、よく読むと微妙に違う点もあります。日本ハム新球場の争点に挙がる野球規則2・01「競技場の設定」もそうです。日本は「本塁からバックストップまでの距離」など、ファウルゾーンに関しては「60フィート以上を必要」と明記。米国は「It is recommended~」という文言で表記されています。「recommended」とは「推奨される、望ましい」という意味。「必要(required)」とはニュアンスが異なる気がします。

大リーグは草創期から変型球場が大半でした。立地的な理由で同規則に沿えないところがあり、そのため運用は緩やかです。フェンウェイパークは「320フィート(97・5メートル)以上が望ましい」という本塁からポール間の距離規則を今も満たしていません。一方で、巨大な左翼壁「グリーンモンスター」などが名物となり、古き良き風情を守り、世界の野球ファンから愛される球場です。そもそも大リーグで、ネットが近いことで論争になった例は聞いたことがありません。

野球1つをとっても、公式球やストライクゾーンなど、日米に違いは存在します。きちょうめんにルールを守ろうとする日本と、どこかアバウトな米国。降って湧いたような新球場問題は、そんな国民性の違いにも起因するのかもしれません。

エスコンフィールドには私も昨年11月、足を運びました。外観を見ただけでしたが、巨大なスケールに圧倒されました。大リーグにあっても誇れる球場が日本で誕生することに、感慨深いものがありました。そもそもデザインしたのは、米国内のスタジアム設計で有名なHKS社。上記のGLFも手がけた同社ですから、観客目線を重視するのは当然でしょう。

ファンとの距離を近づけていくのは、世界のスポーツ界の潮流です。物理的に近づくことで、最も大切なのは安全性の確保です。その点では、大リーグの新球場は臨場感を楽しめるようにする一方で、ネットを高くするなど、ファウルボールから観客を守っています。

もし、日本ハムの新球場が再工事となった場合、来季開幕までに3メートル以上も広げるのは容易ではないでしょう。この3メートルを失うことで、ファンの心が離れてしまうのは、誰も望んでいないはずです。建設的な議論から、規則も柔軟な運用を考える契機になればと願います。(大リーグ研究家)(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)