海の向こうでYOSHIが最初のゴールテープを切った。レイズ筒香嘉智外野手(28)がア・リーグ東地区の優勝を決めた。メジャー挑戦1年目の今季は、コロナ禍で異例のシーズンを強いられ困難を極めた。3月にキャンプが打ち切られ、開幕が大幅に遅れた。開幕後もダブルヘッダーを含む超過密日程の大型連戦が当たり前のように続いた。「侍が日本刀を扱うように。バット1本で勝負する」と挑んだメジャー舞台。現実から目を背けることなく、まい進した。

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乾いた打球音は響かない。相棒は白木のバット。グリップにテープを巻き、松ヤニを染みこませた。ゾーン勝負のバッテリー戦略は一昔前の事象。海を渡った筒香は、ホームベースのコーナーを鋭利な刃物で切り裂くような勝負を繰り返してきた。優勝マジック1で足踏みした前夜、「1番DH。1番センターとかだったら格好いいんですけどね。ただ不思議だとは思わない。これもメジャー。チームとして勝つための方法」と自虐的ではなく、メジャーリーガーとして誇りをにじませた。

7月24日(日本時間25日)の開幕ブルージェイズ戦。開幕弾で鮮烈なデビューを飾った。スラッガーとして強烈なインパクトを残した。ただ、世界中の猛者が集うメジャー舞台。そう甘くはない。打率は下降線をたどった。ほおはげっそりやせこけた。開幕から2週間で体重は6キロ減。コロナ感染予防で遠征地では外出禁止。本拠地でも必要最低限の外出で過ごした。「日本だったら腹がすけば、すぐに何か食べられる。こっちではそうはいかないですから」。不慣れな環境にコロナ禍が拍車をかけた。

バット1本で-。その相棒との出会いにも苦戦した。グリップが細く、ポイントは先端方向に置く。そんな日本で愛用してきた840グラム前後の“軽量バット”はメジャーリーグの規定では使用できない。太くするか、重くするか、いずれかの選択を迫られた。毎試合、毎打席、別のバットを手にした。言い訳は嫌う。全ての現実は自分の中にある。あくまでも独り言として「なんか、しっくりきていない。スイングしている感じがしない」と1度だけ愚痴った。

吐息が白く曇るキャンプ前の2月6日。古巣・横浜スタジアムで決意の“サヨナラアーチ”を連発した。気温3度と冷え込む中、貸し切りでナイター練習を敢行。その日、20発以上を無人のスタンドに放り込んだ「元ハマの主砲」は、ここまでメジャーの舞台で、47試合で8本塁打をマークした。通常の162試合に換算するとシーズン22本ペース。歴代日本人メジャーリーガーでも屈指のレベルを示した。「感覚はまだまだです。でも少しずつ良くはなっている。そのための作業を根気強く続けていくしかない」と愚直に結果を追い求めた。

ここ数試合は同じバットを松ヤニの汚れを拭き取りながら使い込み、新相棒が見つかった。「力任せにハンマーを振り回すのではなく、日本刀のように。簡単には斬れない。とてつもなく重い」の侍精神は、選んだ23四球に表れている。ワールドチャンピオンを目指す戦いは続く。やみくもには、先がない。肝が据わった思考が、筒香の未来を切り開く。【為田聡史】

7月24日に開幕した今季は、66日間で60試合を戦う過密日程。レ軍には新型コロナウイルス陽性者は出なかったが、他球団に出た影響と悪天候で8、9月に3度のダブルヘッダー(DH)をこなした。8月7日からは10日間で2度のDHを含む11連戦、その間に2度の移動。午後8時過ぎまで試合をしてから移動し、翌日また試合という日程もあった。8月18日からは3度の移動を含む16連戦、9月15日からは9日間で10試合とハードな日程の連続だった。