託されてよみがえった岩田稔/矢野監督・再生編2

<酒井俊作記者の旬なハナシ!>

いまも昔も、阪神監督の矢野燿大は「託す」ことを重んじる。プロ14年目の岩田稔投手には、忘れられない1球がある。08年9月27日巨人戦。3回、同点に追いつかれ、2死一塁で李承■を迎えた。内角低めへの速球を豪快にすくわれる。甲子園のバックスクリーン横に吸い込まれていった。

カウントは2-2で、変化球のサインだった。「首を振って投げた真っすぐをホームラン、打たれたんです。インハイに投げたかったのが、李承■の好きなインローにいってしまって。すごく悔いを自分のなかで感じていた」。バッテリーを組んだのが矢野だった。中腰でミットを構えたが球は低めにいき、被弾した。

シーズン佳境に入り、巨人は優勝争いのライバルだった。敗戦後、うなだれていると矢野に声を掛けられた。「お前が首を振って、あのボール、打たれたんやったら、しゃあないやん。そういう意思ってすごく大事やぞ」。39歳のベテラン捕手の言葉は、いまも鮮明に覚えている。実は試合前に言われていた。「投げたい球があったら、首振ってでもいいから、それを投げろ」。24歳に遠慮させない気遣いはあるだろう。勝負どころで、若者の闘志をくすぐる手綱さばきもかいま見える。1球に意思を込める。その重みを思い知ったワンシーンだった。

あれから11年たった。あごひげを蓄えた岩田は貫禄たっぷりに笑う。「僕はおっさんなので」。自虐的なジョークが、なぜか自信めいたフレーズに聞こえる。7月5日広島戦(甲子園)はゴロを打たせる本領を発揮して3勝目。背中を痛めて2軍調整中の岩貞らを欠くなか、先発で奮闘する。

35歳の今年は正念場だ。過去3年は0、3勝で昨季は白星なし。1月下旬、米アリゾナ州での自主トレを終えて帰国すると、携帯電話に1通のLINEが入っていた。

「絶対に岩田の力が必要になるから、しっかりやっておいてくれ。バント練習もな」

キャンプは2軍の高知・安芸からのスタートが決まった。そのタイミングで矢野から届いたメッセージだった。課題の「バント」に触れるなどユーモアたっぷりの文面に感謝する。さりげない気遣いを意気に感じた。

「選手のモチベーションをしっかり保たせてくれる言葉を掛けていただける。僕もね、全然まだできると思っている。こんなおっさんを呼んで使ってくれている。結果で恩返ししたい」

投手と捕手。月日が流れて間柄が変わった。監督と選手へ。岩田は言う。「いま、監督から直接言われることは、特にないですね。ウメ(梅野)と話しながらやっているので」。話し掛けられなくても分かることがある。託されたベテラン左腕がよみがえった。(敬称略)

※■は火ヘンに華

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