8回2死一、二塁。日本ハム田中賢の最後の打席は、あふれる涙でボールが見えなかった。号泣しながら振ったバットは、オリックス山岡のど真ん中直球にジャストミート。右翼フェンス直撃の適時打に、札幌ドームは今季一番の興奮に包まれた。「ずっと我慢してきたので、限界に達しました」。崩壊した涙腺に苦笑いした。

本拠地が東京だった頃を知っている数少ない選手だ。北海道へ移転したチームの歴史は、そのまま田中賢の歴史に重なる。「レギュラーで出ているシーズンでずっと優勝争いできたのは誇り」。2度の日本一、5度のリーグ優勝をすべて経験した唯一の選手となった。

長男が始球式を務めたラストゲームは「2番DH」で、今季26度目の先発出場。4打数2安打1打点で、通算1499安打とした。「いつも、ちょっと足りない野球人生だった。なかなか1番になれない」。ドラフトも2位指名だった。節目には、あと1本、届かなかったが、これほどチームメートや球団職員に愛された選手はいない。9回は志願して守備に就いた球団史上最高の二塁手は「後輩たちには強いファイターズを取り戻してもらいたい」と、仲間たちへ夢を託した。【中島宙恵】