初場所千秋楽で栃煌山(左)を破る琴奨菊(2020年1月26日撮影)
初場所千秋楽で栃煌山(左)を破る琴奨菊(2020年1月26日撮影)

1月の大相撲初場所では徳勝龍の記録ずくめの初優勝が話題を呼んだが、幕内最年長の大関経験者、琴奨菊(36=佐渡ケ嶽)の一番一番にも目が離せなかった。初場所では7勝8敗と負け越したものの、幕内通算勝利数を701に伸ばし、歴代9位の元横綱貴乃花に並んだ。春場所(3月8日初日、エディオンアリーナ大阪)では、同8位で706勝の元横綱武蔵丸(現武蔵川親方)の背中も見えてきそうだ。

初場所前に、記録に関する意識を尋ねに行った。3勝すると歴代10位の旭天鵬に並び、8番勝てば貴乃花を超えることを伝えると「そうなの? えげつない。そんなところまでいってるの?」と、目をまん丸にして驚いていた。だが、横綱白鵬のようにはっきりと記録へのモチベーションを公言する力士もいるが、琴奨菊は違うという。「そこにこだわっていたら、自分のやっていることがぶれるからね。自分にいかに負けないようにするか。(記録は)ありがたいし、うれしいけど、そこって緩みがでるところだから、引き締めていきたい」。

初場所は、初日から2連敗だったが、支度部屋では自身を鼓舞する言葉を連発していたのが印象的だった。「いつかかみ合ってくる」「今は全然苦しんでいい」「今なら頑張れる」「頑張っていこう」という具合に。3日目から3連勝。歴代10位の旭天鵬に並んだ。その日、記者に囲まれると、自身の相撲人生を振り返るように話し始めた。「今まではできあがった竹からの景色しか見たことがなかったけど、今は一呼吸終えて、自分の中の新芽を伸び伸び育てられるように心掛けている」。17年初場所で大関から陥落。そこから新たに始まった相撲人生を竹に例えた。「(現役に)すがりつくわけじゃないけど、歓声とか、今の方が楽しい部分もある」。幕内で相撲を取り続ける中で、新たな刺激を感じている。

注目される記録がもうひとつある。春場所に出場すれば幕内在位は90場所になり、師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)に並ぶ。その師匠は「自分が納得するまで相撲を取ってほしい。記録にも記憶にも残る相撲を取って、いずれ彼が引退したときに『琴奨菊って強い力士だったんだ』と思ってもらえるようになればいい」とエールを送った。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、開催の是非が検討されている春場所。琴奨菊の記録だけでなく、朝乃山の大関とり、上位総当たりで真価が問われる徳勝龍などトピックは多い。無観客でも開催された場合は、コロナ関連の話題だけで埋め尽くされる事態はなさそうだ。【佐藤礼征】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

琴奨菊
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