“プロレスリングマスター”武藤敬司(60=プロレスリング・ノア)が、現役ラストマッチへ目の色を変えた。

東京ドームで開催の引退興行を翌日に控えた20日、都内で行われた記者会見に対戦相手となる新日本プロレスの内藤哲也(40)とともに出席。両足大腿(だいたい)部肉離れの負傷を抱えながらも、「レスラーは“ヒーロー”じゃないといけない」と最後のリングへ使命感を燃やした。

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百戦錬磨の武藤の顔には、いつになく緊張感が漂っていた。自身が最後の対戦相手に指名した内藤と対面しても、笑みはない。「現役として、きっとこれが最後の記者会見。非常に感慨深い」。そう険しい表情で話し始めると、自らに言い聞かせるように「もう大丈夫です」と、言葉に力を込めた。

ラストリングへ、覚悟は決まった。先月22日、化身グレート・ムタが横浜アリーナで引退試合に臨んだ際に負傷。翌日に両足大腿(だいたい)部の肉離れと診断され、「全治6週間」と言い渡された。

「まだ4週間しかたっていない。だけど、ある意味レスラーは“ヒーロー”じゃないといけない。“スーパーマン”じゃないといけない。俺も、プロレスラー。超人的なところを見せないといけない」

もう、弱音はない。迷いもない。「もう大丈夫。多くのファンや内藤選手に泣き言や愚痴を言っていたが、明日は思い切り、内藤選手をぶちのめしてみせます」。そう、不安を払拭(ふっしょく)してみせた。

思い出試合にするつもりはない。内藤を指名した理由について「リングで戦う内容も素晴らしい。胸に来るものがあった」と説明。その内藤から「悔しい思いでリングを下りてもらう」と投げかけられると、目の色を変えた。「それは願ってもいないこと。本当につぶしに来てくれるのか? しゃべっている中に優しさが見える。逆に遠慮されたら困っちゃうからな」。真剣勝負を熱望した。

前日会見が行われたこの日はくしくも、昨年10月に死去したアントニオ猪木さんの生誕80年の日だった。「猪木さんには1度もほめられたことはない。最後に(自身が主宰する)マスターズに呼んだ時も怒られた。きっと明日も、あの世から『派手にしすぎじゃないか』と怒っている気がします」。それでも、最後は笑ってもらえるように。98年に同じく東京ドームで引退試合を行った天国の師匠へ、闘いの魂を届ける。

「灰になりたい」という言葉に偽りはない。フォトセッションでは、終了を待たずに「オッケー、オッケー」と自ら切り上げた。“プロレスリングマスター”の目には、最後のリングへ上がる自身の雄姿しかうつっていない。【勝部晃多】