平成時代、大相撲は華やかな話題も豊富だった一方、多くの不祥事も起きた。

▽07年6月 17歳の序ノ口力士が、師匠と兄弟子に暴行されて死亡。

▽08年9月 幕内露鵬と十両白露山がドーピング検査で大麻に陽性反応を示して解雇。

▽10年2月 横綱朝青龍が酔って知人を殴り、責任を取って引退。

▽10年5月 大関琴光喜や大嶽親方(元関脇貴闘力)が野球賭博に関与していたことが発覚、解雇。

▽11年2月 八百長問題が発生。親方1人と力士19人に退職・引退勧告。

▽17年10月 横綱日馬富士が平幕貴ノ岩を暴行。責任を取って引退。

▽18年1月 十両大砂嵐が無免許運転で事故。引退勧告を受け、引退。

▽18年12月 貴ノ岩が付け人に暴行し、引退。

主なものだけでもこれだけある。暴力に限れば、問題が噴出する下地は、角界の仕組みにもある。

年齢、体格などをクリアし、新弟子検査に合格すれば、力士になれる。ごく一部がプロになれる野球やサッカーと違い、プロ入りするためのハードルは低い。ふるいにかけられてやっとプロ選手になれる他競技とは、意識が異なる。何より、痛みに耐えて体をぶつけ合うという競技特性上、暴力を防ぎにくい土壌がある。

大相撲はスポーツであり、伝統文化でもあり、神事の側面も備える。競技面だけに目を向けて合理性を優先すれば解決できる問題も多いが、それでは大相撲の魅力の多くが失われる。このバランスをいかに保つか-。角界は、いつの時代もこの問題に直面してきた。

不祥事が続いた要因について三役経験者のある親方は、こう指摘する。

「大相撲はもともと、15歳で入門して、力士はたたき上げで育ってきた。近年は、下積みのない関取衆が多い。相撲は強いが人間的に未熟な人が増えている。これは、楽をして関取衆を作ろうと、外国出身者など即戦力を入れてきた親方衆の責任でもある。昔は、15歳で相撲界に入れて、師匠がいろんなことを教えて関取にしてきた。それには時間が必要だった。ここは原点に戻り、強い師弟関係を築いていかないといけない。相撲界が元に戻れば、不祥事は減るのではないでしょうか」

自らの部屋でも不祥事を経験した、別のある親方はこう言った。

「大相撲は伝統文化で、国技館に1歩入れば江戸時代。単なる格闘技ではない。これは変わりようがないけど、相撲部屋のあり方が変わってきている。『伝統文化』『神事』と言っても、入門してくる子は、バリバリの現代っ子なんです。大部分は、そこのギャップから生まれた問題ではないでしょうか」

親方衆のほとんどが、現役時代はたたかれて殴られながら、指導を受けた経験を持つ。今や相撲部屋に竹刀や木刀を置くことは禁じており、日本相撲協会は暴力との決別を宣言している。恐怖で弟子を支配することはできない今、新たな指導が求められている。

幕内優勝も経験した、別の有名親方は「この前、若い衆に注意したら、逆ギレされちゃったよ」と苦笑いしていた。昭和の時代ではありえなかったことだ。親方衆がどう意識を変え、力士をどう育て、不祥事をなくしていくか。いくら調査委を立ち上げ、研修会を繰り返しても、親方や力士の意識が変わらない限りは、不祥事とは決別できない。

「相撲部屋のあり方が変わってきている」と言った前出の親方は「新しい挑戦だと思っています。これができなかったら、指導者としての敗北です」と、令和を見据えて決意を口にした。【佐々木一郎】