幕尻の西前頭17枚目徳勝龍(33=木瀬)が、記録ずくめの初優勝に王手をかけた。平幕で1敗同士の正代との直接対決を制し、単独トップに立った。

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正代までも、徳勝龍の“魔術”にかかってしまった。相手得意の左四つで、引き込まれるようにまわしが取れないまま前に出る。そして土俵際に落とし穴。朝稽古後に「土俵際は注意していきたい」と話していた突き落としを食らった。

支度部屋では放心状態。「勝ちを急ぎすぎましたね。以上です」と話し、その後の問いかけには「すいません」と無言。しかし帰り道、囲まれたファンへのサービスには応じ「立ち合いがよくなかった。もうちょっとはじければ、余裕もあった」と振り返った。

「なるようにしかならないんで」と優勝争いの重圧を消してきたが、さすがにじわじわときた。「寝付きは悪くなりつつある」と明かしていた。「こういうの(優勝争い)は初めてなんで。いい経験をさせてもらっている」。その怖さが14日目の大一番に訪れた。

権利は失っていない。千秋楽、御嶽海に勝ち、徳勝龍が敗れれば12年夏場所の旭天鵬-栃煌山以来となる平幕同士の優勝決定戦に持ち込める。部屋の九州の後援者からすでに優勝祝賀用のタイが送られているという。師匠の時津風親方(元幕内時津海)は「まだ終わりじゃないから。明日がある」。時津風部屋では63年(昭38)名古屋場所の大関北葉山以来、57年ぶりとなる優勝へ、最後まで全力を尽くす。【実藤健一】