大相撲初場所で徳勝龍(木瀬)が初優勝を飾った。33歳5カ月の優勝は年6場所制が定着した58年以降3番目の高齢で、日本出身では最年長。幕尻として20年ぶり2人目、再入幕では史上初、奈良県出身は98年ぶり2度目、木瀬部屋では初と歴史的な快挙だった。

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愛嬌(あいきょう)は当時のままだった。徳勝龍が優勝力士インタビューで見せた振る舞いは、初めて会った12年前と同じだった。08年の春場所中、大阪・大国町で一緒に焼き肉をつついた。入門前の青木誠くんは近大の3年生だった。

実はこちらは、ホープだった幕内栃煌山のネタを引き出す狙いだった。青木くんのことにはあまり触れず、明徳義塾の同級生の話ばかり聞いていた。失礼な記者にも、まだ細かった21歳は嫌な顔ひとつせずにニコニコしていた。ただ、角界入りへは「強い人ばかり見てきたので自分が通用するか…」と後ろ向きだった。

後日、明徳義塾の浜村敏之監督と近大・伊東勝人監督に青木くんのことを聞いた。2人は「優しすぎるんですよね」と苦笑いしながら口をそろえた。「一生懸命な子。最後はそういう人が勝つもんなんですよ」。浜村監督は18年7月に亡くなり、今場所中には伊東監督が急逝した。左四つの型を見抜いた北の湖親方とともに、天国の恩師もきっと涙にあふれているだろう。【元相撲担当 近間康隆】