ハリウッド直送便

舞踏家梅川壱ノ介 日本と西洋の狭間に開く別世界

バレエダンサーから歌舞伎役者、そして人間国宝・坂東玉三郎との出会いをきっかけに日本舞踊を基本とした舞踊家に転身した異色の経歴を持つ梅川壱ノ介が、このほど米国ツアーを行い、ここロサンゼルスでもパサデナにあるストーリアー・スターンズ日本庭園や国際交流基金でパフォーマンスを行いました。古典演目のみならずクラシック音楽や現代アートとのコラボ、神社仏閣や美術館を舞台にしたパフォーマンスなど伝統と革新を織り交ぜた斬新な表現で知られる梅川のパフォーマンスは現地の人たちにも絶賛され、連日スタンディングオベーション。中には涙する人も出るなど大きな歓声が上がりました。そんな梅川に米国公演を行った経緯や感想、今後の展望など話をうかがいました。

パサデナの日本庭園の茶室でパフォーマンスする梅川壱ノ介(本人提供)
パサデナの日本庭園の茶室でパフォーマンスする梅川壱ノ介(本人提供)

新進気鋭の舞踊家として海外文化交流にも積極的な梅川にとって、今回が初の米国公演。ノースカロライナ州チャペルヒル、ニューヨーク、ロサンゼルスの3都市で全6回公演し、大盛況に終わりました。

「ノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)からオペラ公演のゲストアーティストとして招いていただいたことがきっかけで、縁がありニューヨークとロサンゼルスでの公演も実現しました。UNCでは当初は古典をというお話だったのですが、ぜひコラボレーションもということで、生演奏でシューベルトの「冬の旅」とショスタコーヴィチ作曲の「チェロソナタ」の演目を披露しました。ニューヨークでは和室でプライベートショーを、ロサンゼルスでは日本庭園と国際交流基金、クレアモントにあるスクリプス大学の3カ所で公演し、花柳流家元、花柳壽輔さんに今回のツアーのために振り付けしていただいた作品を各地で披露しました。多くの方に喜んでいただき、心からうれしく思っています」

ロサンゼルスでは日本庭園にたたずむ茶室で「連獅子」など2作品を披露し、その美しさに多くの観客が酔いしれました。そして国際交流基金では古典とバレエの動きを取り入れた新作「チェロソナタ」、そして観客と一緒に「元禄花見踊」も踊り、大いに盛り上がりました。

「和室、池、日本舞踊というシチュエーションを楽しんでいただくため、日本庭園では純和風の演目を選びました。ロサンゼルスのあの住宅街に完全なジャパンがあるという不思議や驚き、そして日本の美しさを感じていただけたのではと思います。一方、国際交流基金では普段は押し付けになってしまうので演目の前にあまり解説はしないのですが、こちらの方に少しでも理解していただくためにあえて冒頭に少しだけ見せ場と踊りの内容を説明しました。どう感じるかは見る方の自由な世界ではありますが、作品をより身近に感じていただけたのではと思っております」

舞踊家にとどまらず、モデルや俳優など多方面で活躍する梅川にとって、アメリカはとても魅力あふれる場所だといいます。

「ニューヨークは芸術的なものがたくさんある街ですし、ロサンゼルスはハリウッドなど華やかな世界があります。どちらも今後の活動拠点としてとても大事な場所だと改めて感じています。アメリカは好きな国なので、今後はアメリカにも活動の場を広げていきたいと思っています。ロサンゼルス滞在中に日本語クラスのある中学校を訪問する機会がありました。学校で学生さんに教えることは次世代につながる種を植える作業として重要であると感じています。日本の伝統文化を若い世代の方に知っていただき、それが生活の中で生きてきて、何かしらの変化があれば素晴らしいことだと思います」

東京オリンピックを来年に控え、日本への注目がますます高まっていく中、日本の伝統芸能を継承するためには伝統と革新の融合が不可欠だといいます。

「古典の美しさを守りながら、現代に暮らす皆さんが見たいもの、興味のあるものと日本舞踊がコラボすることで、面白い世界ができると思っています。日本舞踊の美しさは精神や様式美だと思いますので、その2つを守りながら現代の何かと融合させる。例えばハリウッド映画やミュージカル、ラスベガスのショーなど。ショー的要素が強すぎるのは良くありませんが、逆に現代はショー的要素がないと見てもらえないという難しさもあります。何か新しい世界に挑戦して、世界を広げていければと考えています」

東京バレエ団に入団後、日本の伝統芸能に目覚めて国立歌舞伎俳優養成所を経て歌舞伎俳優となり、2016年に日本舞踊を専門とする舞踊家に転身。

「東京バレエ団でヨーロッパツアーに行った時にバレエは西洋文化だと実感し、日本に住む日本人として日本文化を学びたいと思いました。西洋の美しさを知った上で日本の美しさを知ると視点が違い、それは今でも踊りに生きています。ダイナミックで華やかなバレエに対し、小さな動きの中に美しさがあるのが日本舞踊。それがとてもはかなく、時間の経過や思いが多分に含まれていて綿密な動きがある日本舞踊の美しさを玉三郎先生に教えていただきました。そういった意味でもバレエの理解が根底にあり、今のユニークな立ち位置にいる自分があると思っています」【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)

◆千歳香奈子(ちとせ・かなこ) 1972年札幌生まれ。92年に渡米。96年に日刊スポーツ新聞社アトランタ支局でアトランタ五輪取材をアシスタント。99年6月からロサンゼルスを拠点にハリウッドスターのインタビューや映画情報を取材中。

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