昨夏のNHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年の敗戦~」は見応えがあった。緻密(ちみつ)なデータ分析から「日本必敗」の結論を政府に突きつけた総力戦研究所の存在と、それでも戦争に突き進んだ当時の空気に身が縮む思いだった。

そのドラマパートを担当した石井裕也監督が人物描写をより肉厚にして完全版に仕立て上げた。研究所メンバーそれぞれの輪郭がより明確になり、個々の思いがヒリヒリと伝わる。

官軍民からえりすぐられたエリートたちはその母体の意向にしばられながら、最後はデータに裏打ちされた現実に向き合う。古い木造校舎のような会議室で、黒板や紙の図表、木札を使ったやりとりはアナログ世代に分かりやすい。池松壮亮や仲野太賀の絞り出すような演技がメンバーの熱量を伝える。自己犠牲をいとわない姿に胸を打たれる。

東條英機役の佐藤浩市は、そのむしろ冷静だった部分を強調しているように見える。そんな権力者もあらがえなかった時代の空気、同調圧力とは何だったのか。理屈が空気に負ける局面は最近のニュースでもたびたび見かける。「民意」の動きを加速させるSNS時代にその恐ろしさを改めて思う。【相原斎】

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