雪組トップ望海風斗(のぞみ・ふうと)が、あこがれのミュージカル「ファントム」主演に「強い思い、夢がかなった」と意気込む。「オペラ座の怪人」を原作に世界で上演される著名作。宝塚では11年以来、7年ぶり4度目の上演になる。前回主演の元花組トップ蘭寿(らんじゅ)とむから、ゆかりのアクセサリーを譲り受け、念願の大役に臨む。兵庫・宝塚大劇場は明日9日開幕(12月14日まで)。東京宝塚劇場は来年1月2日~同2月10日。

端正なマスクがゆるむ。

「本当にうれしかった。強い思いがかなった」

小説「オペラ座の怪人」をもとにした今作。オペラ座地下にすみ「怪人」と呼ばれた主人公が歌姫・クリスティーヌ(真彩希帆)と出会い、抱く葛藤、恋心、彼を取り巻く人間模様を描く。宝塚では04年に初演。06年に春野寿美礼、11年に蘭寿とむ主演で、望海が在籍した花組で再演された。

「1回目は下級生(4年目)で従者の役。近くで春野さんの歌を聴けて、エリック(主人公)を感じていた日々は、すごくいい時間を過ごさせてもらった」

蘭寿主演時は団員役。

「オペラ座の舞台に立つことを夢見て…という設定で。私たちと同じような立場で、作品を見ていた」

強い共感も抱いていた。今回、春野からは「自分のエリックを作って」とアドバイスをもらった。

「蘭寿さんには、思いをずっとお話ししていたので、退団されるときに、エリックで使っていたアクセサリーをいただいて。願掛けじゃないですけど、そういう思いでくださったので、蘭寿さんも、ものすごく喜んでくださりました」

退団時、先輩からは衣装やアクセサリー、化粧周りの品などが譲られる。望海は蘭寿から今作主演時のアクセサリーをもらった。

「でも、無くしたらいやだから、家においてこっそり見ています(笑い)。アクセサリーケースに入れて。そこに蘭寿さんのエリックが詰まっている。厳かな気持ちになりますね」

先輩の思いに感謝し、稽古を重ねるうち、再演の難しさを実感してきた。

「結末も分かっていて、フレッシュさがなくなってしまう。本当にここはそういう感情? と疑いながら作りました。でも、今まで歌わない歌を歌う。そこは新作に挑む感覚でいます」

作品への思いはリセットして臨む。今作は主人公、ヒロインともに美声が持ち味。当代きっての歌唱力を誇る望海、トップ娘役真彩希帆コンビへの期待も高い。

「曲の中に、エリックの心情がすごく見えてきて、寄り添いやすいのがファントムなんです。(真彩とは)それぞれが作ってきたもので、お互い刺激しあいながら演じたい」

トップ就任約1年半、本拠地3作目が、大劇場の今年最後の作品になる。

「あっという間のような気も、振り返ると5年ぐらいの感覚でも(笑い)。それぐらい詰まっていて、でも、1日1日は短く感じて。いい意味で力が抜け、幸せな気持ちが強い。舞台に立ち、見てもらえることが、どれだけエネルギーになるのか。考えさせられた」

前作「凱旋門」では、劇団理事で専科の轟悠を主演に迎えてタッグを組んだ。轟との共演で「自分の男役をもっと極めたいという気持ちは強くなりました」とも言い、上昇気流にのって、あこがれの作品も極めていく。【村上久美子】

◆抱いた夢をかなえるために、望海が心がけてきたことがある。「過程が大切。かなわなければ終わりじゃない。その夢をもって、かなえたいと思う気持ちが生きる原動力になっていると思う」。強く思い続ければ、後に違った形で結果が出るかもしれない。自身が最も強く思ったことには「それはもう、トップになったことです」と笑った。

◆ミュージカル「ファントム」(脚本=アーサー・コピット氏、作詞・作曲=モーリー・イェストン氏、潤色・演出=中村一徳氏) ガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」をもとに91年に初演。米国内での好評を受け、世界各地で上演されてきた。宝塚では04年に宙組で初演。怪人と呼ばれた主人公エリックの心の葛藤を鮮明にし、悲劇の結末をよりドラマチックに描いた。愛の尊さを問い掛ける宝塚歌劇らしい人気ミュージカル。

☆望海風斗(のぞみ・ふうと)10月19日、横浜市生まれ。03年入団。花組配属。09年「太王四神記」で新人初主演。12年「Victorian Jazz」でバウ初主演。14年「エリザベート」で出世役ルキーニ。同11月に雪組。昨年7月に雪組トップ。同11月「ひかりふる路(みち)」で本拠地お披露目。今夏は理事で専科の轟悠を主演に迎えた「凱旋門」を上演。身長169センチ。愛称「だいもん」「ふうと」「のぞ」。