松竹新喜劇代表の俳優渋谷天外(63)の妻で、元女優の滝由女路(たき・ゆめじ、本名・渋谷久代=しぶや・ひさよ)さんの通夜が10日、和歌山県田辺市内で営まれた。滝さんは8日、膵臓(すいぞう)がんのため、63歳で亡くなった。通夜には約300人が駆けつけた。

 式場には、生前の歌声が響いていた。遺影は、笑顔でマイクを持つ姿。喪主を務めた天外は取材に応じ、最期の会話をこう話した。

 天外「やり残したこと無いか?」

 夫人「一生が楽しかった。やり残したことはない。ほんとにいい人生やった」

 がんを告知され、約2年。闘病生活の間、天外は妻を目いっぱい楽しませた。夫として、役者として、一番の「天外ファン」であっただろう妻を。天外は91年、同じ劇団員だった夫人と結婚。夫人はこれを機に、女優業を引退した。

 16年5月、ステージ4の膵臓(すいぞう)がんが見つかった。ここまで約2年、悔いを残さぬよう、懸命に2人で生きた。

 「(夫人は)ライブは4回、映画2本出演して、舞台も1本やって、本も出して。やりたい放題よ」

 この2年を思い出すように話した天外。夫人のわがままは何でも聞いてあげた。海外旅行も一緒に「5回は行った」という。

 最愛の妻を、二十数年間、仕事やお金の苦労をともにした「戦友」と表現し、「いい時期に死んでくれたよ」と天外。やりきった顔で、「俺ができる限りのことを出来たから。それはやっぱりうれしかったね。自分でも」と続けた。

 最後に、何か思い出したように「(夫人は)一番の俺のファンやったんかな…どうなんやろうね…」とつぶやいた。答えは最後まで聞けなかったというが、世界一のファンは、天外のずっとすぐそばにいたのだろう。