鋭い視点で斬り込むMBSテレビのドキュメンタリーシリーズ「映像’17」。今回は「教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか」と題したドキュメンタリーを30日深夜0時50分(関西ローカル)から放送する。

 同番組が教育と政治の関係の取材を重ねていくと、国政を大きく揺るがした、ある人物の名前にぶつかった。

 学校法人「森友学園」の籠池泰典前理事長……。

 昨春、籠池氏はある歴史教科書を採用した中学校に「反日教育をするのか」と実名で“抗議”のハガキを送っていた。

 ハガキの差出人には「籠池泰典」の直筆の名前があり、裏面には「この度、御校が採用しました歴史教科書は、中学生用に唯一、慰安婦問題(事実とは異なる)を記した反日極左の教科書であるという情報が入りました」「将来性のある若者に反日教育をする目的はなんなのでしょうか?」「歴史教科書の採用を即刻中止することを望みます」。

 同じ文面のハガキは籠池氏からだけではなく、地方都市の市長などからも届いていた。匿名も含めその数、1校につき200枚以上。同番組は送り主の1人、山口県防府市の松浦正人市長にインタビューした。山口県は安倍晋三首相のおひざ元。松浦市長は首相の教育政策に賛同する「教育再生首長会議」を立ち上げた人物だった。

 「なぜハガキを送ったのか? 正しい教科書を出さなければいけませんよ、という声を発信した。この教科書は、ちょっと偏ったことが書いてあるとの情報を耳にしました。20から30通は送った」と認めた上で「圧力として受け取られる方もいらっしゃるかもしれないが、そうだったら『ごめんなさいね』というしかないですね。圧力を受けたとおっしゃるならね」。

 標的にされた教科書についても取材すると、「考え、議論する」歴史を目指す先生たちが集まり、新たな中学の歴史教科書をつくった経緯があった。従来のように年代順に大きな出来事を並べ、暗記させるのではなく、人間の営みを軸に歴史はどうやってつくられてきたのかを、じっくり考えさせ、ときには疑問がわくように編集されている。中学の歴史教科書から消えていた日本軍慰安婦の記述を十数年ぶりに復活させたが、政府の公式見解に沿った内容にとどめている。

 昨年から全国の難関と言われる私立中学校で多く使われるようになった。採用についてある校長は「より深い学習に到達することを目指す『アクティブ・ラーニング』に適した教材である」とその理由を述べている。

 さらに実態に迫るため、この歴史教科書を採用した複数の学校に授業風景の撮影を申し込んだが、すべて断られた。その背景に学校に送られてきた大量のハガキがあった。昨春、この教科書を採用すると決めた学校には、日中戦争当時の白黒写真ハガキを使って「反日」「この教科書を採用するな」といった匿名や学校OBを名乗る差出人不明の人たちからハガキが次々届いた。

 さらに続いて籠池氏、松浦市長らの名前でこの歴史教科書に載せた日本政府の談話が事実に反するとして「反日教育をやめろ」と同じ文面のハガキが届いていた。教育現場への組織的な動きだった。