東京都の築地市場が分裂している。小池百合子知事が6月20日、「築地は守る、豊洲を生かす」との基本方針を出してから、築地で働く人々の心はさらにバラバラになった。特に魚を扱う水産仲卸業者は移転賛成派、反対派さらにリターン派が加わり、意見はもつれる一方だ。混迷を極める世界の築地。それぞれの主張に迫り、今後の築地を占う。

 9月5日、都議会で豊洲市場移転に関する約55億円の補正予算案が可決した。築地再開発を検討する経費2000万円も含まれた。

 「6・20」以降、奇妙な化学反応が起きた。移転賛成派と反対派に共通意見が生まれた。「中央卸売市場の分裂はありえない」。賛成派は豊洲、反対派は築地に「市場は1つ」との考え。そこへ小池方針に前向きな「リターン派」が生まれた。仲卸の目利きを生かしたセリを行い、品質と適正価格を守る市場内取引のみを築地に戻す「市場機能分離案」だ。

 1923年(大12)創業、マグロ仲卸「鈴与」の生田與克(よしかつ)店主は、市場には「荷受け(集荷)→セリ(評価)→分荷→決済」の一体が必要不可欠という。

 「市場はクッション機能。漁獲過多でも仲卸がコントロールして売りさばける。在庫が余り、生だったら腐る。日本で生食ができるのは市場があるから。なければ冷凍だけになる。荷受業者も仲卸がいないと困る。機能分離はありえない」

 豊洲市場にはターレー(小型運搬車)通路にヘアピンカーブがあり「曲がれない」との指摘があるが「ルールを作って守ればいい。築地は年間300件もの事故がある。今が自由でひどすぎる」と首をかしげ「職場環境に100%などない。与えられた環境でやるのが仕事」と言い切った。