【シンガポール11日=中山知子】北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が、深夜に動いた。トランプ米大統領との史上初の米朝首脳会談を翌日に控えた11日午後9時すぎ(日本時間同10時すぎ)、滞在先のホテルを突然出発し、シンガポール随一の観光名所マリーナ・ベイ・サンズを訪れた。夜景鑑賞の可能性があり、12日の会談を前に謎の余裕を見せた。米朝実務者同士の事前交渉に満足したとの見方も出ており、首脳会談の行方が注目される。一方、会談場所のホテルがあるセントーサ島は本番を前に、厳戒警備が敷かれた。
まさに「サプライズ」だった。正恩氏は11日夜、滞在先のセントレジスホテルを、30台以上の車列で突如、出発。シンガポール随一の観光名所「マリーナ・ベイ・サンズ」や「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」を訪れた。ともに人気のマリーナ地区にあり、地元メディアによると、正恩氏は夜景を鑑賞したようだ。行く先々で、手を振る余裕があった。メディアのカメラのフラッシュにも動じず、笑顔を見せていた。シンガポールの外相らとセルフィー撮影に応じる場面もあった。11日深夜、滞在するセントレジスに戻った。
「マリーナ-」は、トランプ氏の有力支援者が経営。一時、米朝首脳会談の開催場所の有力候補に浮上したこともある。
正恩氏は10日夜、リー・シェンロン首相と会談後にセントレジスに戻って以降、外出の痕跡がなく、11日の動静は不明だった。「経済関連の視察に行く」などの臆測も出たが、日中は姿を見せなかった。米朝首脳会談まで半日を切った11日夜、観光目的で外出した背景には、会談への手応えをつかんだからではないかとの臆測も飛んでいる。
一方、トランプ氏は11日昼、首相と会談。14日に72歳の誕生日を迎えるため、記念のケーキを贈られた。12日会談成功への「前祝い」も込められたのか、国を挙げて支援するシンガポール政府の期待がにじんだ。
米朝会談は12日午前9時に始まる。冒頭は通訳だけを交え、最大2時間協議した後、側近らが加わる見通しとされる。米国側は、最大の焦点である北朝鮮の完全非核化への確約を譲らない見通しで、ポンペオ米国務長官はこの日の会見で、「朝鮮半島の『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』しか受け入れない」と断言した。
正恩氏は12日午後2時には、北朝鮮に向けて帰国する見通し。一方、ホワイトハウスも11日、トランプ氏が12日夜に帰国の途に就くと発表した。会談は午前中の「短期勝負」になるとみられる。歴史的な「顔合わせ」で終わるのか、それとも朝鮮半島の非核化に向けた前進か。強烈なリーダー2人は初顔合わせで、どんなニュースをもたらすのか。
◆会談のポイント 北朝鮮の非核化に向けた行程が最大の焦点。60年以上、休戦状態にある朝鮮戦争(1950~53年)の終結も議題になる。米朝は実務協議で、双方の主張の隔たりを埋めたい考えだ。一方、北朝鮮の朝鮮中央通信は11日、金正恩氏が米朝首脳会談のため10日にシンガポールを訪問、新たな関係樹立や、朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制構築、朝鮮半島非核化の実現などについて幅広く意見交換すると伝えた。北朝鮮が会談の結果判明前に正恩氏の外遊を報じるのは異例。