トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は12日、シンガポールで史上初の米朝首脳会談に臨んだ。

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 米朝首脳会談は、日程決定の段階から波乱含みだった。北朝鮮の強硬さに怒ったトランプ氏が「中止」を打ち出したが、1日で撤回。金正恩氏は、交渉術にたけたトランプ氏のやり方を再認識したはずだ。

 メディアセンターのライブ映像で正恩氏の様子を見ていたが、非情な独裁者、傲慢(ごうまん)のイメージは見せず、笑顔でにっこりと握手。人を見る目は「直感勝負」というトランプ氏も、これで警戒を解いたように思う。正恩氏は意外と「人たらし」なのかもしれない。笑顔も戦略の一環というなら、怖いが。

 親子ほど年が離れたトランプ氏をたて、流れに従い動いた。一方で、指導者のプライドものぞかせた。手を上からねじこむような「上から目線」の握手。共同声明後に部屋を出る際には、自分からトランプ氏の背中に手を回した。年下の正恩氏がねぎらう形になり、その「背伸び」感に、海外メディアの記者は笑っていた。トランプ氏はすぐ正恩氏の背中に手を回し、たたえ合う形に持ち込んだ。

 驚いたこともある。共同声明発表の際、正恩氏がトランプ氏と交わした短時間の会話には、通訳がなかった。恐らく英語で話したのではないか。スイス留学経験があり、会話は可能なはず。表舞台には出てきたが、まだ謎が多い指導者なのは確かだ。【中山知子】