「電車なのに自転車操業」と言ってはばからず、「マズイんです! 経営状況が…」と「まずい棒」を売り出すなど自虐ネタで知られる銚子電鉄(千葉県銚子市)が新型コロナウイルスの直撃で、本当にマズイ状況になっている。

観光客が8割を占める鉄道は閑散。もうひとつの柱である「ぬれ煎餅」や「まずい棒」も観光客激減で大苦戦。ユニークな企画で経営危機に立ち向かってきた銚電が大ピンチだ。

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うららかな陽気となった19日は親子連れも乗り込み、2両編成の車内に10人を超す乗客がいたが、銚電によると、今月に入って1本当たりの乗客は平均5人。乗客ゼロで銚子~外川間6・4キロを走る列車も出ている。11日から計画運休がスタートし、本数を3割減らしたが、「銚電の場合、間引き運転しても密になることは全くない」(柏木亮・取締役営業戦略担当)。3密とは無縁にもかかわらず、コロナ禍は直撃した。

銚子のシンボル「犬吠埼灯台」は、安倍首相が2週間の自粛を要請した2月末に見学中止となった。「地球の丸く見える丘展望館」「銚子ポートタワー」も今月1日から臨時休館した。観光客の動きが止まったところに、銚子の隣、東庄町の障がい者福祉施設で集団感染が発生した。犬吠埼温泉のホテル、旅館に入っていた予約は風評被害で軒並みキャンセルになったという。

「銚電は8割が観光客です。ゴールデンウイーク前、鉄道会社にとって一番いい時期なのに誰も乗っていない」(柏木取締役)。銚電の経営は、銚子~犬吠の往復運賃(700円)とお土産のぬれ煎餅(450円)で成り立っているという。観光客激減で共崩れとなり、「本当にヤバイです」と柏木取締役は言う。

賞味期限が5月3日に迫った「まずい棒」は倉庫に1700袋もたまった。「想定外の出来事で、まずい棒が在庫の山。本当にまずい」とSNSで発信したところ、「助けて!一日のきっぷ売上が4480円なの」「まかせろ」のハッシュタグが付いて拡散。善意の購入申し込みが相次ぎ、17日に完売した。しかし、賞味期限切れとなる商品はこれから毎月出てくる。

緊急事態宣言を受け、竹本勝紀社長は「このままの状況が続けば、会社は1年もたない」と話した。しかし、柏木取締役は「現在はもっと逼迫(ひっぱく)している」という。しかし、そこは「日本一のエンタメ鉄道」。「私たちは絶対にあきらめない」として「鯖威張るカレー(サバイバルカレー)」を発売したのに続き、20日からは、銚子のおばさんたちお手製の「サバイバルマスク」を売り出す。タイトルこそ自虐めいているが、本当の銚電のサバイバル戦争だ。【中嶋文明】

◆銚子電鉄 1913年(大2)創業の銚子遊覧鉄道が前身。途中2度の解散を経て、48年、現社名で再出発した。銚子~外川間6・4キロを22分で結ぶ。全10駅。昭和の高度成長期は年間約150万人の乗客がいたが、車の普及、沿線人口の減少で現在は約35万人。