★3日、首相・高市早苗の熊本地震の被災地を視察した時の官邸が制作した“現地視察動画”がネットのみならず大手メディアでも取り上げられる。多くの感想は「BGMは必要か」「首相のプロモーションビデオだ」と散々だが、強く感じられるのは「プロによる演出が過ぎる首相が主役のドキュメンタリー風」であることだろう。ここ数年の首相の議会などの振る舞いを見ても、会見の猫なで声や各国首脳との不自然な高揚感を醸し出す態度など、いささか一国の首相とは思えぬ無駄な演出臭にうんざりしていた国民へ「決定打」となったと言える。被災者との懇談のシーンは北朝鮮かと見まごうほどで「支援物資は来るし、こんな快適な生活はないと思いました。涙が出るほどありがたいです」「不満はなく本当に至れり尽くせりです」。5日の会見で官房長官・木原稔は「被害の状況を視察した際の様子を国民の皆様に分かりやすくお伝えするための手法の一つだ」と過剰演出を認めた格好だ。社会ではそれをヤラセという。
★ことは視察動画だけでは収まらない。視察自体があまりにもお粗末で、先の懇談が行われた避難所は航空自衛隊のおかげでいち早くシャワーや風呂が完備され、ベッド機能も整い、冷房も効いた場所と言われるが、同日の各避難所の多くは雑魚寝と冷房なしが続いていた。本来行き届いた避難所に行く視察もあろうが、不自由を余儀なくされている被災者を訪ね、ひざを折って話を聞く方が首相の震災時の「できることはすべてやる」精神に通ずるのではないか。そう考えれば整ったきれいな場所を選んだのは誰かと問いたくなる。
★思い出されるのは阪神淡路大震災の時に首相・村山富市から「省庁間調整も含め専任でやってくれ」と特命を受け阪神・淡路大震災復興対策担当相に就任した小里貞利のすごさだった。まだ各省で連携やシステムが整う前のことだが、小里は現地入りして陣頭指揮を執り、被災者、地域社会、自治体、ボランティアがうまく協調したことが復興の原動力となった。「超法規でもやる」は認められた。大蔵官僚が「『公費で』と言わない方がいい」と言うのを「計算するな」と一蹴した。森林法や農地法などの壁が復興を妨げたが「私が責任を取る」の一言で役所は動いた。現代では小里の苦労なくとも機能するものは増えたろうが、トップに防災に興味がなく、覚悟がなければ元の木阿弥だ。(K)※敬称略


