今度は現職総理が標的にされた。15日午前11時25分ごろ、衆院和歌山1区補選(23日投開票)の応援で和歌山市の雑賀崎漁港を訪れていた岸田文雄首相に向け、男が筒状のものを投げつけ、1本が爆発した。男は威力業務妨害容疑で現行犯逮捕された。首相にけがはなかったが、爆発は聴衆の面前で起き、現場は大混乱した。昨年7月、安倍晋三元首相が遊説中に銃撃され死去した事件を機に要人警護は強化されたはずが「教訓」は生かされず、5月のG7サミットを前に大きな不安を残した。
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岸田首相に向け、爆発物とみられる筒状のものを投げ込つけたのは、兵庫県川西市の木村隆二容疑者(24)。和歌山県警によると「弁護士が来てからお話しします」と供述。黙秘しているという。
爆発は、首相の演説に集まっていた200人近い聴衆の目の前で起きた。
首相は午前11時15分ごろ雑賀崎漁港に到着後、まずエビなどの地元海産物を試食。その後、聴衆の前を通って演説場所に移り、開会を待っていた時、聴衆の中から筒状のものが投げ込まれ、首相の近くにコロンと転がった。SPが防弾カバンで止め、左足で蹴り出したが「キャー」と悲鳴が響いた。音に気づき背後を振り返った首相をSPが防弾カバンでガードしながら、筒から遠ざけた。首相は車に乗り込み、避難した。
「何やってる!」。木村容疑者は、周囲にいた漁協関係者らに最初に取り押さえられた。「離れて」「下がって」。避難を促す声が飛び交う中、「ドン」と大きな爆発音が起きた。白煙が上がり、焦げ臭いにおいが漂った。少し前まで首相がいた場所の近くだった。
木村容疑者はマスク姿。首相から約10メートルの聴衆の中に立っていた。抵抗する様子はなく、現行犯逮捕された。筒状のものは金属製で、パイプ爆弾の可能性がある。県警は、殺人未遂容疑も視野に、殺意や爆発物の殺傷能力の有無などについて詳しく調べる。現場にいた警察官1人が軽傷を負った。木村容疑者は2本持ち込んだとみられ、1本は破裂し、1本は身柄確保の際に手にしており、現場に残っていた。木村容疑者の近所に住む住民は「おとなしい子だった印象がある」と話した。
演説は中止されたが、首相は自らの意思でその後の遊説を再開した。また、木村容疑者を取り押さえた地元の男性漁師らに電話をかけ、直接謝意を伝えた。
昨年7月、安倍氏が奈良市で銃撃死してから9カ月。この間に「警護要則」が改定され、今回も要則に基づいた対応がとられた。和歌山県警が策定した警護計画を警察庁が事前審査し、承認したが、それでも暴挙を防げなかった。
岸田首相は16日、参院補選の遊説で大分に入る。大分県警は警察官を増員して警備に当たる。23日投開票の衆参補選や統一地方選後の5月に海外要人が多数来日する広島サミットを控える中、現職首相への襲撃を防げなかったことに、政府や警察関係者には大きな衝撃が広がっている。
<パイプ爆弾が使われたとみられる主な事件>
▼1994年12月21日 東京都千代田区の日本テレビに届いた女優宛ての封筒が爆発。所属事務所社員の男性が左手親指を失う重傷。女優は離れたスタジオで収録中で無事だった。容疑者逮捕に至らず時効が成立。直径1・7センチ×長さ14センチの鉄パイプと火薬約20グラムが仕込まれていたとされる
▼96年7月27日 米アトランタ五輪7日目、センテニアル公園の屋外コンサート会場で重量約18キロのパイプ爆弾による爆破事件が発生。死者2人、負傷者111人。別の爆破事件を起こした男が同事件の容疑者として逮捕された。事件は米国で映画化された
▼2015年11月22日 東京・靖国神社境内南側公衆トイレで天井に金属パイプ3本に詰めた火薬が爆発し、天井が壊れるなどし、韓国籍の男が逮捕された。神社には七五三参拝で多くの家族連れがいた

