宇和島東、済美の2校で甲子園を制し、2014年9月に67歳でこの世を去った上甲正典監督の思い出とともに予土線を巡った旅の後編。予土線といえば、四万十川の美しい光景とともに近年ではホビートレインも最近は有名になっている。前回は新幹線を模した車両に乗ったが、今回は「かっぱうようよ号」にも乗車。列車は愛媛県へと入っていく。



上甲さんの奥さんである節子さんにも大変お世話になった。家に泊めていただくのだから、当然のように奥さんに作ってくださったご飯をいただく。特にいつもおいしい朝食を食べさせてもらった。「節子の実家は(最大のライバル校だった)松山商業のすぐ近くなんだ。不思議な縁だね」と、何度か聞かされた。

その最愛の節子さんが52歳の若さで亡くなったのは2001年のこと。上甲さんの落ち込みようはかなりのもので、葬儀に参列できなかった私が夏の県大会前に訪れると「ありがとう」。それだけだった。その県大会決勝で松山商に敗れ宇和島東に別れを告げた。当初は野球と離れるつもりだったが、節子さんの「監督をしている時のあの人が好き」という言葉を知り、済美の監督に就任。04年に創部2年で初出場初優勝に導く。決勝戦の最後の守りとなった9回には「節子助けてくれ」と祈った。


88年センバツで初優勝した宇和島東。左端が上甲監督
88年センバツで初優勝した宇和島東。左端が上甲監督

ただ、その節子さんも予土線については「乗ったことないなぁ」と話していた。宇和島から愛媛県内で行き止まりとなっていた宇和島鉄道が予土線の原型。国有化され、高知県まで延伸することになったが、戦争があったため、全線開通は74年とかなり遅れた。予土線沿線も例外なく車社会ができつつあった。

最後の清流と呼ばれる四万十川の流れは複雑で、車窓の右に左にと現れるため、進行方向どちら側にいても楽しむことができる。彩りを添えるのがホビートレイン(写真〈1〉)。かっぱのオブジェは子どもたちに大人気で記念撮影が絶えなかった(写真〈2〉)。ただ気をつけなければならないのは主要駅の張り紙(写真〈3〉)。以前、晩秋に通しで乗車した時、冷え込みを警戒してビール持ち込みを控えたことを覚えている(写真〈4〉)。


〈1〉窪川駅で並ぶ高知行きの普通列車〈右〉と宇和島行きのホビートレイン
〈1〉窪川駅で並ぶ高知行きの普通列車〈右〉と宇和島行きのホビートレイン
〈2〉ホビートレイン内のかっぱのオブジェ
〈2〉ホビートレイン内のかっぱのオブジェ
〈3〉予土線の主要駅には列車内にトイレがないことを知らせる張り紙がある
〈3〉予土線の主要駅には列車内にトイレがないことを知らせる張り紙がある
〈4〉江川崎駅でお手洗いにいける停車時間が設けられている
〈4〉江川崎駅でお手洗いにいける停車時間が設けられている


四万十川と別れて愛媛県に入ると、周辺は次第に街となっていく。近永から宇和島にかけては通勤通学たのめの区間運転が行われ、本数も多くなる。宇和島まで、もう間もなくの伊予宮野下駅で降りた(写真〈5〉〈6〉)。大雨で予定が変わったが、最後はこの駅だと決めていた。初めて予土線に乗車した駅。


〈5〉伊予宮野下駅で下車する
〈5〉伊予宮野下駅で下車する
〈6〉かつては三間町の中心駅だった伊予宮野下駅
〈6〉かつては三間町の中心駅だった伊予宮野下駅

上甲さんが亡くなる約3カ月前、済美のグラウンドを訪れた。私は病魔のことなど知るよしもない。練習後の食事風景もいつも通りだったが、後で考えると少しおかしいな、と思うこともあった。高校野球の現役監督は、思い出話を自らすることは少ない。もちろん聞けば話してくれるが、メンバーが毎年変わる学生スポーツは、目の前のチームを見ることが大変だからだ。大会直前の6月ともなると特にそうだ。それが数々の思い出話とともに後継者監督の話題まで冗舌に語っていた。何か期するものがあったのだろうか。

伊予宮野下駅のホームで写真を撮ろうとしていると、ポコポコと音が聞こえてきた。三間小学校のホームページによると、竹風鈴といって、三間高校の生徒が作り、同小の児童が短冊に絵を描いたという(写真〈7〉)。雨はすっかりあがって、駅舎の軒下では風とともに心地よい音が響き、短冊のメッセージに心がなごむ(写真〈8〉〈9〉)。


〈7〉伊予宮野下駅の竹風鈴
〈7〉伊予宮野下駅の竹風鈴
〈8〉短冊のメッセージ
〈8〉短冊のメッセージ
〈9〉三間小学校の生徒さんのメッセージに心がなごむ
〈9〉三間小学校の生徒さんのメッセージに心がなごむ

次に訪れる時は天候に恵まれるといいな。今後も予土線に乗る時は、必ず上甲さんのことを思い出すのだろう。高校球児の夏はこれからクライマックスである(写真〈10〉〈11〉)。【高木茂久】


〈10〉窪川へと戻る列車は新幹線のホビートレインだった
〈10〉窪川へと戻る列車は新幹線のホビートレインだった
〈11〉新幹線のホビートレインにはポストも設置されている
〈11〉新幹線のホビートレインにはポストも設置されている

※今回は雨で予定が変わり行けなかったが、おすすめの駅は他にもたくさんある。松丸駅は駅舎が温泉になっていて、近くには有名なうなぎ店がある。平家の落人伝説に基づいた駅名が有名になった半家駅もある。四万十川を堪能したいのなら打井川駅だ。何があるという駅ではないが(というかどちらかというと何もない)、四万十川は思い切り満喫できる。