さて岡山側からスタートした芸備線の各駅訪問は、ようやく芸備線の列車に乗車。いよいよ広島県に入る。内名は山中にたたずむ1面1線の棒状駅で駅舎もない。車でのアクセスもいいとはいえず、バス路線もない。それでも、そんな場所で歓迎を受けた1時間だった。(訪問は3月15、16日)

 
 

今回の旅程は私にとって「2日間とも平日でないと行けない」ものだった。週末の運行がないバス路線ばかりだからだ。新見~東城間も平日のみの運行がある(東城~備後落合は平日も週末も関係なく3往復だが)。なかなか平日の連休を確保するのが難しく、ようやくの出発になった次第。

平日の行動にはもうひとつ理由があり、青春18きっぷのシーズンに突入したこの時期、週末ではとてつもない乗客で埋め尽くされるのではないかと懸念した。昨夏の青春18きっぷシーズンでは、あまりにも旅客が多すぎて地元の高校生が乗り切れないこともあったという。今春は大糸線のJR西日本区間(糸魚川~南小谷)も多くの旅客で埋め尽くされたとか。詰めかける理由は分からないではないが、日常で利用している通勤通学者が乗れないのは健全なことではない。特に芸備線はこの1本を逃すと東城止まりの列車も3時間後までないのだ。


◆矢神13時27分→内名13時58分


平日とはいえ、予想通り、備後落合への事実上の1本となる車内は混雑していた。1両編成でギリギリ座れるかどうかというレベル。ただしお隣の野馳(のち)で10人ほどいた高校生は全員降りてしまった。岡山と広島の県境にあたるので当然だろう。新見~東城の列車が多めに設定されている理由が分かる。そしていよいよ内名に到着。初訪問である。もっとも多く乗っていた乗客の中で下車したのは私1人。1日の乗降客がゼロとなる日も決して珍しくない。そんな駅だが降りると「お出迎え」を受けた。上田さんとおっしゃるご婦人だ。駅の清掃をして、ときおりこのように利用客を出迎えるという。(写真1、2)

〈1〉内名は待合所のみの棒状駅
〈1〉内名は待合所のみの棒状駅
〈2〉内名の駅名標
〈2〉内名の駅名標

駅について話を伺う。待合所のみの棒状駅だが、待合所には数々のイラストや過去記事などが張られ、ちょっとした記念館状態だ。駅に着くまで分からないと聞かされていた缶バッジと訪問記念シートもいただいた。缶バッジはちょうど春バージョンに更新したばかりだという。貴重な一品だ(1人1個です!)。実を言うと、ここから50分ほど歩いて備後八幡駅に向かう予定だったが、こんなおもてなしを受けては去るわけにもいかない。というか、この貴重な空間と時間はすぐ去るには惜しすぎる。備後落合からの折り返しが来るまでの約1時間、堪能するとしよう。(写真3、4)

〈3〉内名駅でもらった缶バッジ
〈3〉内名駅でもらった缶バッジ
〈4〉内名の記念シート。駅スタンプも押されている
〈4〉内名の記念シート。駅スタンプも押されている

「駅前」には1軒の民家があり、スロープを降り、川を渡った先にも民家がある。備後八幡方面へは、線路沿いの道はなく、かなたに見える県道を行くのだという。上田さんによると、かなり狭い、車同士のすれ違いも大変な道路だという(歩くのだったら影響ないが)。東城方面に買い物に行く際は、この道路を使用するが、地元の方はさすがに道路幅やカーブの具合がしっかり頭に入っているという。話を聞いて私にはちょっと無理だと思った。(写真5、6)

〈5〉駅から坂を下りて川を渡るといくつかの民家がある。県道は山沿いのかなたを通る
〈5〉駅から坂を下りて川を渡るといくつかの民家がある。県道は山沿いのかなたを通る
〈6〉内名の時刻表
〈6〉内名の時刻表

感心したのは小奴可へ買い物に行くお話。お隣の小奴可の駅前にはスーパーがある。今回乗車した列車で小奴可に行くと現地滞在が約50分。買い物をしてちょうど帰って来られる。とても貴重な列車だそうだ。(写真7、8)

〈7〉待合室の展示物は過去の新聞記事以外もユニーク
〈7〉待合室の展示物は過去の新聞記事以外もユニーク
〈8〉内名への訪問を歓迎してくれる
〈8〉内名への訪問を歓迎してくれる

さて、内名ではさらに「2人」から歓迎を受けた。ひとつはホームのお向かいにいるワンちゃん。毎度毎度ワンちゃんの話ばかりで申し訳ないが、初めて見る男は不審者である。それはそれは長時間にわたっての大歓迎だった。

ようやくワンちゃんも落ち着き、静寂が訪れたホームで、私が取り出したのは岡山駅のコンビニで購入した菓子パン。新幹線に乗車前の朝の5時台に牛丼店で食べた朝食以降、何も口にしていない。列車までもちょうど良い、と駅名標の前で写真などを撮り、ふと視線を感じると、かわいくお座りしたニャンコと目が合って「ニャー」。これは山陰本線の特牛駅で受けた歓迎と同じである(3月31日の記事)。(写真9~12)

〈9〉気配がするので振り向くと目が合った
〈9〉気配がするので振り向くと目が合った
〈10〉しばし、ひなたぼっこ
〈10〉しばし、ひなたぼっこ
〈11〉お帰りのようです
〈11〉お帰りのようです
〈12〉遅い昼食の記念撮影をしたが…
〈12〉遅い昼食の記念撮影をしたが…

ただし私が持参していたのは塩分そしてマスタードたっぷりのパン。さすがにこれはあげられない。猛烈におなかはすいていたが、待合所で泣く泣くカバンにしまう。ニャンコはトコトコとついてきて、ホームでひなたぼっこなどをしていたが、さすがにあきらめたのか、映画「スタンド・バイ・ミー」よろしくレールの上を歩いて去っていった。ネコがレールを歩いても罪には問われないのである。

1日たった3往復の東城~備後落合間で内名は唯一、戦後に生まれた駅である。それまで備後八幡まで50分かけて歩いていた地元の方々にとっては待望の駅だったという。先述した通り、設置から70年近くが経過した今も車での利便性が富んでいるとはいえない。こんな駅が以前は日本中にいくつもあったんだろうな。そんなことを感じさせる場所である。【高木茂久】(写真13~15)

〈13〉花が添えられているのが印象的だった
〈13〉花が添えられているのが印象的だった
〈14〉駅を去る時がやってきた
〈14〉駅を去る時がやってきた
〈15〉待合所の資産標は駅の開設当時のものだった
〈15〉待合所の資産標は駅の開設当時のものだった