<信頼できる心臓外科医とは(1)>

 「私、失敗しないので」-。テレビドラマ「ドクターX」の主人公・大門未知子の有名な決めゼリフ。これから手術を受けようとする患者さんに、この言葉を口にする心臓外科医は、まずいません。私自身は“失敗しない”と思っていますが、口には出しません。ある程度のレベルに達した心臓外科医は誰もがそう思っているでしょう。

 ただ、手術といってもどこまでを手術というかで、成績は多少違ってきます。<1>「手術室での終了時点まで」、<2>「集中治療室を出るまで」、<3>「退院まで」、で考えてみます。私は<1>のようなケース、手術中に手術台の上で患者さんが亡くなったという経験はありません。<2>、<3>となると、高齢の患者さんであれば肺炎を起こす、脳梗塞を起こす、リハビリ中に転んで骨を折るなどはありますので、リスクは少しアップします。

 つまり、手術は問題なく終わっても、その後に合併症などが起こるリスクはあります。この点は、患者さんと患者さんの家族にきちんと“正直に話して”理解してもらうことを必ず行います。正直にきちっと話せる心臓外科医が信頼できる医師。なかには自分の手術成績を誇張して話す心臓外科医がいます。そんな心臓外科医は信用すべきではありません。正直に話せる心臓外科医は自分の手術成績を客観的にみることができ、信頼できる心臓外科医です。

 手術室を出てからのリスクを減らすために、心臓外科だけではなく病院全体でリスク減少に取り組んでいる病院は信頼できます。手術前に歯科衛生士が患者さんの口の中をチェックし、虫歯があれば治してから手術に。また、糖尿病患者さんの場合などは、内科医がしっかり血糖コントロールをしてから手術に。最近ではたばこを吸っている患者さんに対して、3カ月禁煙してから手術に、という病院も出てきました。心臓外科医のみならず、病院全体がリスクマネジメントに取り組んでいるのが大事です。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)