平均寿命が飛躍的に延び、日本人の約2人に1人ががんになるといわれています。私たちの体は細胞の数を一定に保つ機能を持っていますが、遺伝子に傷がつき、突然変異が生じると、勝手に増殖する異常な細胞集団が現れることがあります。制御が利かずに増え続けるため、身体に必要な栄養などを奪い取るだけでなく、より良い居場所を求めて体内を移動し、さらに増殖しようとします。

こうした現象が、がんと呼ばれる病気の正体です。病名は最初にできた場所の名前をつけますが、同じ場所でもタイプの違うがんができることもあり、その病態は多種多様です。こうしたがんの成り立ちを考えると、高齢化社会で罹患(りかん)率が増えるのは当然ともいえますし、「がんになりにくいように気を付ける」ことはできても、「がんにならないようにする」手段はないのが現実です。

しかし、がんが不治の病というイメージがあったのも、今は昔。医療技術の発展で、ごく小さい段階から発見できる上に医薬品の開発も進み、がんと向き合いながら仕事に復帰するなど、病気と闘いながら日々の暮らしを送っている患者さんも少なくありません。

抗がん剤などの化学療法を受ける方の40%、白血病に代表される難治性の血液疾患で造血幹細胞移植を受ける方の80%、口腔(こうくう)領域が放射線治療の照射野となる頭頸(とうけい)部がんの患者さんでは実に100%の確率で、口の中に合併症が生じるとされ、私たち歯科医がこうした患者さんの日常生活をサポートする場面も増えています。合併症で最も多いのが口腔粘膜炎(口の中の粘膜が炎症を起こす症状)で、痛みによって食物を十分に取れなくなってしまうのが一番の問題点です。

次回はその対処法についてお話しします。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。