トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏(48)が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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2019年6月に公的保険適用となった、「がんゲノム検査」。網羅的遺伝子検査により検出された変異により、特異的な(1人1人の体質や病状に合わせた)治療薬が使えるかもしれない、画期的な検査です。

遺伝子の変異の検出は、今や非常に重要な検査項目です。一方、遺伝子の変異に合わせた薬は、確かに急速に増えていますが、そんなに選択肢は増えていません。

もともと、発がんの機序(仕組み)が不確定なままがん治療が始まった経緯もあり、また日本の治療薬の保険適用上、臓器ごとのがん(胃がんや肺がん)で治療薬の適用となってきたため、同じ遺伝子変異のあるがんでも、発症臓器が異なると保険上使えない場合があります。結局は、なかなか応用は難しいのです。

さらに白血病はよく見られる遺伝子変異、遺伝子構成でも、全体の半分以下です。繰り返しになりますが、年間8000人程度で各種遺伝子に対応した患者さんを集めて新薬を作っても、有効かどうかは、なかなかわかりません。少しでも同じ変異を持つサンプルを増やして、新薬を開発していきたい。科学者なら当然そう思いますが、遺伝子変異のサンプルの争奪戦が始まってしまいそうです。

創薬の世界の市場規模で考えると、米国はカナダ人も含めて3億5000万人ほど。日本は1億2500万人ほどでしょう。というわけで、日本の創薬開発の市場としての価値は、やや落ちます。一方、これほどちゃんと治療や注意を守る国民性と、医療機関に通いやすい国はありません。きちんとデータが集まる市場としては、価値は高いと考えます。

でも、「お国のために、わたしのゲノム遺伝子情報を使ってください」というのは、前近代的ですよね。それに「◯◯遺伝子があるから、あなたは△△薬を使わなければならない」と言われると、私的には窮屈な世の中に感じてしまいます。患者さんとの話し合いで、治療を考えるとはいっても、膨大な遺伝子検査結果のプラスとマイナスだけで治療を決めるとなると、ますます患者さんは医師との距離を感じるでしょう。考えすぎかもしれませんが…。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。