東京五輪を目指す選手たちは、どんな曲を好み、どんな曲を励みにしているのか? 7競技15人の選手に、一押しの曲を挙げてもらった。アスリートらしく、選手の背中を押すような名曲が勢ぞろいした。選手たちは皆、音楽の力を競技に生かしている。


<陸上>

■市川華菜(27=ミズノ)

HY「NAO」

「岡崎城西高(愛知)の時からずっと聴いている」と話す。他にも好きな曲はバラード調ばかりだという。「私は緊張しやすいので、落ち着いている曲を聴きたいんです。テンション高めの曲を聴く人も多いですけど、私は心臓がバクバクしてしまうので。すごく失恋ソングって落ち着くんですよね。緊張する気持ちを落ち着かせるために、テンポが遅い失恋ソングばかりを聴いています」と説明した。念のため…「病んでないですよね?(笑い)」と確認してみたが、「大丈夫です。勇気をもらって、前向きになりますよ」と笑顔で勧めていた。


■山県亮太(26=セイコー)

Mr.Children「PADDLE」

「Mr.Childrenさんは92年にデビューで、実は僕と同い年なんです」と笑う。昨年のデビュー25周年記念ライブにも行った。PADDLEは歌詞を自身の競技生活と重ね合わせ、励みとする。特にサビにある、未知の世界に挑戦して化学変化を期待するような歌詞がお気に入りだ。「どんな結果になるか分からないけど、とりあえず飛び込むように、トライしてみようと考える。不安になったり、ヤバイなと思ったりしても、思い切りよく行こうと元気が出る。背中を押してくれる歌詞ですね」と語った。


<卓球>

■石川佳純(25=全農)

Superfly「タマシイレボリューション」

12年ロンドン五輪から走り続ける五輪ロードは、この歌とともにあった。「ロンドン五輪の時からずっと聴いているお気に入りの歌です。歌詞もメロディーもすごく好き」と一押しする。「試合前にも聴きますが、どちらかというと練習する時だったり、自分を励ましたい時に聴くことが多いですね。他の歌も好きだけど、この歌が特に好き。自分を奮い立たせてくれる歌かなと思います」。女子卓球界をけん引し、プレッシャーを背負うエースは、自身への応援ソングを支えにして、東京五輪ロードを走り抜くつもりだ。


■張本智和(15=エリートアカデミー)

ヒルクライム「ルーズリーフ」

15歳らしくTWICE、WANIMAなど若者に人気のアーティストを幅広く聴くが、他選手に紹介されてからはまっている1曲だ。「他の選手が聴いていて好きになって、『春夏秋冬』でさらに好きになりました。そのあとにいろいろ聴いてこの歌に出合いました」。歌詞には「君が主人公のその物語」とある。「負けている時とか落ち込んでいる時でも元気にしてくれる歌。勝っている時とかうれしい時は、そのまま勢いに乗れます」。自国開催で主役を張るべく、金メダルへの物語を真っ白なルーズリーフに書き記していく。


<バドミントン>

■福島由紀(25=岐阜トリッキーパンダース)

J SOUL Brothers「Welcome to TOKYO」

■広田彩花(24=岐阜トリッキーパンダース)

ONE OK ROCK「キミシダイ列車」

めまぐるしく入れ替わる絶妙な連係をみせ、勝てば焼き肉祝勝会をする仲の良いペアだが、さすがに好きな曲は重ならなかった。1歳上の福島が挙げたのは三代目が16年に発表したダンスチューン。「テンションがあがります」と気持ちを高めるため試合前によく聴くという。広田が選んだのはフィギュアスケート男子羽生も好きと公言する曲。「歌詞がいいし、テンションがあがる」とアップ時に聴くと明かした。今年は初めて世界ランキング1位につき、全日本選手権2連覇。20年東京五輪に向け、存在感を示した1年となった。


■桃田賢斗(24=NTT東日本)

ケツメイシ「夢中」

選んだのは、今年最も輝いた大会にちなんだ歌だった。「世界選手権の時に(ケツメイシが)作ってくださった曲。優勝した大会なので思い出深いです」。8月の世界選手権では圧倒的な力で優勝した。日本男子史上初の快挙を成し遂げた。1月に2年ぶりに日本代表に復帰。鍛え上げたフィジカルを武器に国際大会で勝利を重ね、282位からスタートした世界ランクは9月に1位まで到達した。世界王者となっても「勝ち続けることが大事」と慢心はない。曲の歌詞と同様、もっと先を見つめている。


<競泳>

■池江璃花子(18=ルネサンス)

flumpool「WINNER」

邦楽洋楽問わず音楽好きというスイマーが、「なかなか、これ1曲というのを選ぶのは難しいですね」と悩みながら選んだのはアスリートらしい1曲。「歌詞もいいんですよね」と共感する部分が大きいという。テレビのスポーツ番組のイメージソングにも使用されるその一節は、誰のために、なぜ続けているのかと自問自答する意味の歌詞から始まる。池江にとって、それは泳ぎだが、強く前向きに背中を押してくれるようなサビのフレーズなどが、20年東京五輪で「WINNER」を目指す心に響いている。


■瀬戸大也(24=ANA)

少女時代-Oh!GG「Lil' Touch」

今も昔も少女時代のファン。「少女時代の曲は全部好き」というだけあって、なかなか1曲に絞れない。「うーん」と悩んだ後で「最近でいうんだったら、少女時代の中の新しいユニットの『Lil Touch(リル・タッチ)』です。その新しい曲をよく聴いてます」。ポジティブシンキングが持ち味の瀬戸にとって、この曲は「乗りやすい」と、お気に入り。今月の短水路(25メートルプール)世界選手権では200メートルバタフライの世界記録を樹立。ノリにノッている24歳は東京五輪400メートル個人メドレー金メダルを目標にしている。


<体操>

■村上茉愛(22=日体大)

NEWS「フルスイング」

最初に耳にしたのは大学1年の時。「たまたま聴いて、歌詞がその時の自分にはまったんです」。当時は体重管理ができず、きつい練習を粘り強くやりきることができなかった。日体大の瀬尾監督から「体操への向き合い方を見直しなさい」と叱られ悩んでいた中、全力で前に進むことを歌ったこの曲が支えになった。地道な練習の大切さに目覚め、世界で活躍するようになった今も「よく聴きます」。今年は7月の練習中に右足首靱帯(じんたい)損傷から回復し、11月の世界選手権個人総合で銀メダルを獲得した。


■白井健三(22=日体大)

ベリーグッドマン「ライオン」

「けっこうプロ野球の入場曲でも使われているんです。知ってます?」とうれしそうに話し、選曲の理由を続けた。「仲間の大切さを歌っている曲です。団体戦の前、特にインカレの前によく聴いていました」。日体大の主将として、いかにチームの団結を深められるかに心を砕いた1年。そこに“1人はみんなのために、みんなは1人のために”という意味の歌詞が響いた。8月の全日本学生選手権では、萱、谷川航らをそろえた3連覇中の順大を抑え、4年ぶりの優勝を達成。リオ五輪の団体金でもなかったうれし涙を流した。


<柔道>

■渡名喜風南(23=パーク24)

RADWIMPS「万歳千唱」

毎日3回以上聴くお気に入りソングだ。1000人の若者と一緒に作り上げ、全員で万歳できるようにとの思いを込めて制作された楽曲。「テンションが上がる。気持ちが晴れ晴れして、『今日もやるぞ』と気合も入る」。今春入社の新社会人で満員電車を苦手とし、柔道と仕事の両立を図るために試行錯誤の日々が続く。頭を切り替えるためにも音楽は「生活の一部」と言う。昨年の48キロ級世界女王は、9月の世界選手権決勝で敗れた。同曲を聴いて11月のグランドスラム大阪大会を制し、世界に「アピールできた」と成長を示した。


■高藤直寿(25=パーク24)

スキマスイッチ「全力少年」

中学生の頃から練習や試合でうまくいかない時や、モチベーションが上がらない時に必ず聴いている。スマートフォンのお気に入りプレーリストに入れる“パワーの源”だ。「つらいことがあっても前向きになれる。なぜか、やる気が湧いて元気になれる。この曲を聴いて音楽の力はすごいと感じた」。05年4月発売の曲だが、今でも多い時は1日2、3回聴く。五輪や世界選手権などの大舞台で活躍する60キロ級の世界王者は、相手を研究した「大人の柔道」を心掛けるが、少年の時のように無心で全力でぶつかった気持ちも重要と強調した。


<スポーツクライミング>

■野口啓代(29=TEAM au)

MAN WITH A MISSION「Winding Road」

今年9月、宇都宮で行われたライブハウスでのコンサートに初めて参加し、その時にお気に入りの1曲に。「今年初めてコンサートに行かせていただく機会があって、そこで聴いた曲なので思い入れがあります」。以降は試合前やオフにも聴くようになり、「アルバムは全部好き」と言うほどマイブームになった。野口は今季、八王子ボルダリングW杯で史上最多の22勝にあと1つに迫る通算21勝目を挙げた。来年8月には東京五輪出場権が懸かる世界選手権(東京)が控え「来季はW杯より世界選手権を中心に」と目標を設定した。


■楢崎智亜(22=TEAM au)

ONE OK ROCK「努努-ゆめゆめ-」

クライマーは普段のジム練習でのBGMとして曲をかけることも多い。楢崎は同アーティストを中学、高校時代から好きで、07年に発売されたこの曲も「古い曲なので、昔から聴いていました」と愛の深さを感じさせる。わかりやすく背中を押してくれる歌詞が多く、「歌詞が良い意味でくさい感じ。曲中のストレートな歌詞が直接に心に響きますね」と力をもらえる1曲だ。9月の世界選手権で初めて行われた複合では、スピードでのスタート失敗が響き総合5位。悔しさをバネに、東京五輪出場権の懸かる来季の選考大会に臨む。