2020年東京オリンピック(五輪)・パラリンピックが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて史上初の延期となりました。来夏の開幕まで、時計の針が戻って471日。大会組織委員会の森喜朗会長(82)が「かつてない挑戦」と言う前例のない決定に今後は「?」だらけ。日程、観戦、運営、選手の観点から疑問に答えます。【構成=木下淳】

日本人第1走者として聖火リレーを走る野口みずきさん
日本人第1走者として聖火リレーを走る野口みずきさん

★日程編

Q.結局、大会はいつに延期されたの?

A.五輪が21年7月23日~8月8日、パラリンピックが続く8月24日~9月5日に決まったよ。

Q.今年の「7・24開幕」から1日だけ前に。なぜ同じ日にしなかったの?

A.近年、金曜日に開幕して3度目の日曜日に閉幕する17日間が通例(サッカーなど先行開催を除く)。それが来年は23日だった。

Q.金曜日なら16日や30日でも良かったんじゃ?

A.政治や国民感情への配慮があった。16日だと、22日に任期満了を迎える都議選と重なる。30日だと、閉会式が8月15日の終戦記念日と同日に。どちらも避けたかった。さらに16日だとボランティアの確保、児童・生徒が観戦しやすい夏休みの前。23日がベストだった。

3月24日、史上初の五輪延期の決定が下された
3月24日、史上初の五輪延期の決定が下された

Q.じゃあ最初から夏に延期と決まっていたんだね

A.いや、暑さがやわらぐ今秋、来年の春と秋、さらに2年後も検討されたんだ。今秋はコロナの終息が見通せず、早々に断念。来秋は米国の4大スポーツと重なり、米放送大手NBCが嫌がった。国際オリンピック委員会(IOC)に、同局は14年から32年まで夏冬10大会で総額120億5000万ドル(約1兆2653億円)もの放映権を払っているから、影響力絶大なんだ。あとは2年後も冬季北京五輪の後になってしまうし…。最後は来年の春と夏の一騎打ち。春は代表選考期間が十分に取れず、コロナも不透明。IOCと組織委がメリット、デメリットを比べて夏に落ち着いた。

Q.3月24日に延期が決まって新日程が30日に決まるまで6日。早くない?

A.会場確保など、あらゆる交渉は会期が決まらなければ始められない。IOCも組織委も特急だった。

Q.そもそも五輪が延期された例はあるの?

A.初めてなんだ。1896年の第1回アテネ大会以降、近代五輪124年の歴史で。中止なら夏季大会は3回ある。1916年ベルリン大会が第1次世界大戦で、40年の東京大会は日中戦争で返上→代替地ヘルシンキもソ連侵攻で、44年ロンドン大会は第2次世界大戦で。中止も第○回と数えるので来夏は32回目。ちなみに冬季は中止が2回。

Q.初の延期で1年後の夏、は分かったけど、新型コロナは終息するのかな?

A.ここは組織委の森会長の言葉を借りよう。「神頼みだけど通じるはず」。


★運営編

Q.2021年になったけど「TOKYO2020」の名称は?

A.そのまま変更なしでIOCと合意したよ。公式グッズ、聖火リレーのトーチ、ロゴ等、従来のものを使えて作り直し不要。余計な経費がかからずに済む。

Q.リレーも中止になったけど、聖火は日本に届いちゃってる。どうするの?

A.ギリシャで採火されて先月20日に宮城へ到着した後は、グランドスタート地点の福島・Jヴィレッジで今月1日から展示されていたよ。ただ、緊急事態宣言が発令された7日に中止…。当初は30日まで一般公開予定だった。その後、総務省が地方創生のため全国を巡回展示したい意向を示したけど、どうなるかな。

聖火の入ったランタンを受け取った野村忠宏氏(中央左)と吉田沙保里氏(同右)
聖火の入ったランタンを受け取った野村忠宏氏(中央左)と吉田沙保里氏(同右)

Q.来年の聖火リレーは通常通りなの?

A.今年の枠組みのまま行われる方針だよ。47都道府県の859市区町村を121日間で回る予定。福島スタート、同じコースと日程になると思うよ。あってもマイナーチェンジかな。

Q.聖火ランナーは?

A.今年の走者は、最優先で来年も選ばれる予定。新たな日程が確定したら意思確認されるはず。残念ながら、東京・東村山市を7月14日に走るはずだった志村けんさんが新型コロナウイルス肺炎で他界された。その他、辞退者などの対応は検討課題になるね。

Q.ボランティアは?

A.競技会場などで運営を支えるフィールドキャストが約8万人、案内業務などのシティキャストが約3万人いたんだ。基本、既に決まっている役割や配属先で来年も優先的に採用される。ただ、就職する学生など一定の辞退者が見込まれるので補充は必要かなあ。

Q.延期に伴う追加経費はどのくらい? 誰が負担するの? まさか税金?

A.武藤総長が3000億円程度か聞かれ「それぐらいで済めばいいけど…」と漏らしたほど巨額。橋本五輪相は「17年の大枠合意が基本」と。それだと主に組織委と都の分担。政府やIOCにも拠出を求めていくはずだ。政府の負担が増えれば国民の税金に。IOCが出してほしいなぁ…。

Q.考えたくないけど…新型コロナがアフリカや南米に広がったら?

A.来年そうなれば感染地域の選手は参加できないかも…。ただ、五輪は全世界からの参加が開催都市契約で明記されている。「すべてのID保持者(選手や関係者)の入国を保証する」と。入国制限のある国からの出場も無条件で認めないといけない。安倍首相の言う「完全な形」にもならないし、参加については新たな議論を呼びそうだね。


★観戦編

Q.マラソンは札幌会場のままなの?

A.今年と同じ真夏の開催となったことで、東京よりは涼しい札幌になる。小池都知事が「(移転は)合意なき決定だが、札幌になると思う」と認めた後、IOCも明言したよ。

Q.野球は来年になっても開催されるの?

A.もちろん。過密日程を心配しているのかな。確かに野球は来年3月に4年に1度のWBCがあり、11月にはアジアチャンピオンシップがある。その合間に五輪。各球団は年間3度も選手を供出することになるけど、既に続投要請された侍ジャパン稲葉監督には協力するはず。ソフトボールの開幕2日前の先行プレーボール(福島・あづま球場)も予定通りの方針だよ。

東京五輪で野球・ソフトボールの会場となるあづま球場(19年7月撮影)
東京五輪で野球・ソフトボールの会場となるあづま球場(19年7月撮影)

Q.競技や種目に変更はないの? 各会場は同じ?

A.今夏のフレームを生かして364日後にスライドする計画。当然、五輪の33競技339種目も変わらないよ。会場は、コンサートなど興行予約が入っているところとの個別交渉になるけど、組織委の武藤事務総長いわく「絶対に困ると言われた会場はない」。

Q.せっかく当たった観戦チケットはどうなるの?

A.既に五輪が約447万枚、パラリンピックが97万枚の計544万枚を販売済み。当選購入者には先月31日から組織委にメールが届いているはずだよ。無効ではなく、来夏も原則利用できるよう調整中。競技日程や会場が変わって来場が難しい場合は払い戻しもOKの見込みだ。6月以降予定のチケット発送は凍結。春季販売用に集めた応募はがきの取り扱い、無料だった2歳以下が来年は3歳になる問題は対応策を検討中。

Q.来年の同時期、福岡で水泳世界選手権があったはず。重なるよ?

A.21年7月16日~8月1日の予定。ただ、国際水連は「見直しを検討する」と発表。22年も視野に入れて延期される見通しだよ。米オレゴン州で計画されていた陸上世界選手権(8月6~15日)も22年に延期される方針。

Q.観戦ツアーを申し込んだけど、どうなるかな?

A.大会オフィシャルパートナーのJTBなど3社が公式観戦ツアーを販売していたよ。開閉会式や人気競技のチケットが付いた企画旅行が人気で、高倍率だったけど。催行中止などの対応は各社に確認してね。


★選手編

Q.延期について選手はどう思っているの?

A.コロナ禍を避ける点では「歓迎」で一致しているよ。ただ、ベテランには「1年は長い」し、若手は「成長できる」と受け止め方は違う。負傷などで今夏絶望だった選手は希望に変わるね。ドーピング違反で失った資格が復活する可能性がある選手は、ほくそ笑んでいるかもしれないよ。

Q.1年後でも選手はベストの力を発揮できるの?

A.ピークを今夏に合わせていた選手には厳しい条件。だけど、1年後に落ちる選手も、伸びる選手もいる。一長一短。個人次第。

Q.既に内定していた選手はどうなるの?

A.NF(国内競技連盟=全柔連など)に委ねられているよ。柔道は既に14階級のうち13階級が決まったけど、対応は検討中。大迫傑選手ら男女6人が選ばれたマラソン、伊藤美誠選手たちの卓球は再考しない。世界各国の出場枠など五輪全体の57%が決まっていたんだけど、その原則維持をIOCも求めているよ。1度は決まった代表権が剥奪されれば、日本スポーツ仲裁機構へ調停を申し立てる泥沼のケースもあるかも…。丁寧な判断が不可欠になる。

Q.延期や中止になっていた予選大会は?

A.各IF(国際競技連盟)が来夏から逆算して決め直す。ゴルフ、フェンシングなどポイント制の競技は通算期間が変わるかも。

Q.サッカー男子は確か出場資格が23歳以下の選手だったよね。どうなるの?

A.間もなく24歳以下に引き上げる決定がなされる見込み。IOCがIFやNOC(各国・地域オリンピック委員会)に基準拡大の通達を出し、FIFA(国際サッカー連盟)も同調。次の理事会に諮ると発表したから。そもそも規約には「23歳以下」でなく「97年1月1日以降生まれ」と記されている。変更がなければOKの状態だった。

分譲マンションとして販売される選手村に大会延期の影響が直撃する
分譲マンションとして販売される選手村に大会延期の影響が直撃する

Q.約1万1000人分の選手村はどうなるの?

A.東京・晴海のまま変わらないよ。宿泊棟21棟(1~8人部屋)で計3800戸。ただ、大会後が問題なんだ。5632戸が分譲・賃貸で供給されるんだけど、既に940戸が売れていて。23年3月下旬からの入居予定が、延期で…。多額の補償問題に発展するかもしれない。心配だなぁ。