東京五輪・パラリンピック300回連載

コロナ拡大の中、欧州で戦う日本人アスリートの今

東京オリンピック(五輪)開幕まであと半年余りに迫る中、感染拡大する新型コロナウイルスは世界中に暗い影を落としている。国内外のスポーツ界でも感染防止の観点から無観客開催を余儀なくされたり、複数の選手が感染して一時的に活動自粛を強いられたりする例も後を絶たない。日本を離れて欧州を拠点に活動するアスリートたちは、今どんな思いで競技に打ち込んでいるのか。その実情に迫った。

■バレーボール@イタリア 石川祐希

セリエA 9月開幕。一部延期など経て開催中

イタリア・セリエAで戦う石川(提供写真)
イタリア・セリエAで戦う石川(提供写真)

バレーボール日本代表のエース石川祐希(25)は、世界最高峰リーグのイタリア・セリエAで6シーズン目を迎えた。「世界トッププレーヤーになる」という目標に近づくために、今季から強豪ミラノに移籍。序盤戦から攻守の両面で存在感を放ち、自身もセリエA通算1000得点を達成するなど着実に結果を残していたところ、昨年12月上旬に新型コロナウイルスへの感染が発覚。感染直後は38度を超える高熱やせき、嗅覚や味覚の異常が出た。

4日にオンライン取材に応じた石川は、既に「陰性」が確認されたことを報告。現在の体調について「体調は問題ないんですけど、味覚、嗅覚に関しては半分くらいです」。コロナに感染したことで、一層その怖さを肌で感じている。

石川 僕も「陽性」が分かった時は、どこで(ウイルスを)もらったのか分からなかったので驚きました。また感染したということで、とても不安になりました。症状が落ち着いてきてからは気持ちは楽になりましたけど、最初はどうなるんだろうと思いました。幸い軽症で済みましたけど、中にはこの病気で命を落としたり、重症化して非常につらい思いをしている方もいます。多くの人たちがより一層気を配るべきだと思います。

セリエAでは各チームで4人以上の新型コロナ感染者が出た場合、そのチームは活動停止。所属するミラノもその対象となり、数試合延期を余儀なくされた。年末からチームに合流した石川だが、実戦から約3週間離れたことで筋力が落ちたという。新年最初の公式戦に出場中も、試合勘の不足を感じた。

石川 パフォーマンスに影響する感じは特になかったんですけど、1カ月間試合に遠ざかっていたので、こういう場面でどういうメンタルで臨んでいたのかなと定まらないことはありました。

ミラノは年明けから11日までに3試合を戦って3連敗だが、石川は直近の試合では今季最多となる1試合25得点。五輪が約半年後に迫り、調子は上り調子だが、自身も感染したからこそコロナへの不安を口にする。

石川 アスリートとしてはオリンピックの舞台は特別。そこでプレーしたい気持ちは強いですけど、今の世界情勢を考えると簡単な判断ではないです。僕の考えとしては、コロナに感染した身として健康が一番だなと感じています。人々の健康や命を一番最優先にして考えてほしいです。

深刻さを増す状況を鑑みた率直な思い。1日も早い収束を願いながら、感染症予防を徹底し、来るべき日に向け静かに準備を進める。【平山連】

◆石川祐希(いしかわ・ゆうき)1995年(平7)12月11日、愛知県岡崎市生まれ。小4で競技を始め、愛知・星城高では2年連続3冠(インターハイ&国体&全日本高校選手権=春高)を達成。14年に中大に進学し、在学中からイタリアでプレー。今季からミラノに移籍し、上位4位以内を目指している。191センチ、84キロ。妹の真佑も女子日本代表に選ばれている。

◆イタリアの感染状況

1日平均感染者数  15,719人

累計 2,390,102人


■バレーボール@フランス 福沢達哉

1部リーグ 10月開幕。一部延期など経て開催中

フランスリーグ1部パリバレーでプレーする福沢
フランスリーグ1部パリバレーでプレーする福沢

バレーボール男子日本代表のアウトサイドヒッター福沢達哉(34)は、東京五輪延期決定後、フランス1部リーグ・パリバレーで2季目のプレーを選んだ。中大4年の時、08年北京五輪代表に当時最年少で選出された。ベテランの域に達したが、向上心は衰えることを知らない。「納得できる形でもう1年やってほしい」と日本に残す家族からの思いも背負っている。

所属先のパナソニックからレンタル移籍で加わった福沢は現在、体育館と自宅との往復が続いている。フランスでも新型コロナウイルス感染状況は深刻で、夜間の外出禁止令が出ている。不要不急の外出をできるだけ少なくしているといい「コロナ前は街中を散策してリラックスすることができたのですが、今はかなり行動を制限しています」と話す。

初めて出場した北京五輪は5戦全敗。オリンピックの舞台で勝つために、海外に身を置き一皮むけたいと2カ国でプレーした。ただ、今季も異国の地で戦うかどうか当初悩んだ。妻や4人の娘からの応援が後押し、離れて暮らす家族とのオンライン会話が息抜きだ。

シーズン序盤はチームの歯車がかみ合わず、負けが続いた。ストレスがたまる中、追い込まれている自分と向き合った。スパイカーとしてどうすればチームの勝利に貢献できるか。プレーヤーとしての新たな可能性を探る機会になったと今では思う。

東京五輪代表になれるのは、1チームわずか12人。「才能豊かな若い選手がどんどん台頭している中、ここで足踏みしちゃいけない。僕にはまだまだ伸びしろがある」。今日も強い覚悟でコートに立つ。【平山連】

◆福沢達哉(ふくざわ・たつや)1986年(昭61)7月1日、京都市生まれ。中大卒業後、パナソニックパンサーズ入団。1年目から主力として活躍し、新人賞など受賞。日本代表では最優秀選手賞やベストスパイカー賞に選ばれるなど長年チームを支えている。15-16シーズンにブラジル、19-20と20-21シーズンにフランスでプレー。妻と4人の娘がいる。189センチ、86キロ。

◆フランスの感染状況

1日平均感染者数  18,176人

累計 2,907,711人


■サッカー@スペイン 久保建英

1部リーグ 9月開幕。超厳戒態勢で開催中

エルチェ戦でプレーするヘタフェMF久保(ゲッティ=共同)
エルチェ戦でプレーするヘタフェMF久保(ゲッティ=共同)

東京五輪での活躍が期待されるサッカー久保建英(19=ヘタフェ)が戦うスペインリーグでは、新型コロナウイルス感染症対策として、厳しい手順規約が適用されている。昨年10月28日に更新された統一規定(全87ページ)の主な内容は次の通りだ。

◆試合参加 各チームは試合48時間前までメンバー(スタッフ含む)のリストを提出(PCR検査の結果により変更可)。ケガ人や招集外になった選手たちもスタジアムへの入場が可能。その場合、リストを提出する際に名前を記載しておく必要がある。

◆検査 試合48時間前、メンバー全員にPCR検査を実施し、陰性なら参加可能。陽性反応を示すも無症状の場合、最低10日間の隔離措置。一方、症状がある場合は発症から最低10日間、そして発熱や症状がなくなってから3日後まで隔離措置を行う。また、陽性反応を示した選手は個人トレーニングのみ可能。

◆移動 ホームチームは自家用車。例えば久保の前所属先のビリャレアルの場合、練習場に全員が集合した後、警察車両が先導し、各自の運転で全員が連なり、試合45分前に会場入り。アウェーチームは、飛行機か電車での移動はチャーターする必要があり、バスの場合は450キロ以上の移動および座席数の50%を超えて乗車することは禁止。

◆スタジアム入り 入場口が3つ用意。1番目は両チームのメンバー、審判団、2番目は試合前に会場の準備などが必要な人、3番目はそれ以外の人。両チームのメンバーともにスタジアム入りする際、マスク着用、検温が義務。

◆ロッカールーム 試合開始前は先発メンバーのみ練習着からユニホームに着替え、監督の指示を受けるために使用が可能。ハーフタイムは休憩、ユニホームの着替え、監督の指示を受けるため使用可能で、控え選手は入れない。試合後は着替えのため使用可能。最大7人までのグループで順番に行う。10分以内。試合後のシャワーは基本的には禁止されており(※一部例外あり)、ホテルもしくは自宅で浴びる。

◆ベンチ 選手はベンチ裏のスタンドを使いマスク着用が義務。監督のみ着用しなくても良い。

◆記者会見 監督はテレビ電話を通じて行われる。【スペイン通信員・高橋智行】

◆スペインの感染状況

1日平均感染者数  40,647人

累計 2,336,451人


■ホッケー@オランダ 田中健太

1部リーグ 1月31日無観客でスタート

オランダ1部リーグ「HGC」で練習を行う田中健太(本人提供)
オランダ1部リーグ「HGC」で練習を行う田中健太(本人提供)

ホッケー男子日本代表のエースFW田中健太(32)は、本場オランダ1部リーグで3季目を迎える。南西の都市ハーグ郊外のワッセナーを拠点にする「HGC」でプレー。31日のリーグ再開へ、田中は7日に出国して、オランダ入りした。

入国時の隔離措置はなし。田中は「日本はなかったが、他国のチームメートはあった。(相手の)国によって違う」。現地の感染者は1日約7000人。街中はレストラン、バー、ジム、商業施設は閉鎖。一方で生活必需品を扱うスーパー、薬局などは営業中で、夜間の外出制限はない。同国は昨年4月にコロナ禍でロックダウンを行った。当時も現地でプレーしていた田中は「街中は当時とほぼ同じ印象です。ただマスクをする人の割合は増えた」。

チームは現在、少人数のグループではなく、全体練習を行っている。一方で、あいさつでの握手禁止、練習場では一方通行、練習後のシャワー禁止、食事はあらかじめ小分け、など対策がとられている。また練習試合の前もPCR検査を実施する。田中は「トップスポーツを開催するための対策は昨年に比べて、徹底されている印象です」。

昨年は春、秋で2度リーグが中断した。ただ秋は同国でサッカーだけが無観客で続行。ホッケーで五輪金メダルを男女2個ずつ獲得しており「選手は『なぜサッカーは続けるのか』と抗議していた」という。秋に中断されたリーグは、未消化の試合を含めて、前倒しで31日から再開される。「リーグは無観客、選手は毎試合、PCR検査を受ける」と田中。コロナ禍と付き合いながら、ホッケーは再開される。【益田一弘】

◆田中健太(たなか・けんた)1988年(昭63)5月4日、滋賀県米原市生まれ。小3で競技を始める。伊吹山中-奈良・天理高-立命大-和歌山県庁。18年ジャカルタ・アジア大会金メダルに貢献。同年に仕事を辞めて、30歳でオランダ1部HGCと契約した。ポジションはFW。家族は妻と1女、172センチ、67キロ。

◆オランダの感染状況

1日平均感染者数 6,685人

累計 917,308人


■国内でも影響大

日本国内のスポーツ界でもコロナの影響は色濃い。選手6人が新型コロナウイルスに感染したバレーボールの男子1部の東レは昨年12月、クラスター(感染者集団)認定された。一時活動を停止し、同月行われた天皇杯・皇后杯全日本選手権への出場を辞退した。

全日本選手権男子シングルスで優勝を決めた桃田(20年12月=代表撮影)
全日本選手権男子シングルスで優勝を決めた桃田(20年12月=代表撮影)

バドミントンでは、男子シングルス世界ランキング1位の桃田賢斗(26=NTT東日本)が今月、海外遠征に向かう際に成田空港で受けたPCR検査で感染を確認した。これを受け、日本協会は出国予定だった全選手やスタッフの派遣中止を決定した。

政府は8日から緊急事態宣言を東京、埼玉、神奈川、千葉の1都3県に再発令した。来月7日まで期間としており、発令中はスポーツ界全体でさまざまな影響が出てきそうだ。

日刊スポーツが2020年東京五輪・パラリンピックに向けて毎週お届けする300回の大型連載です。ここでしか読めないスペシャルな話題満載です。

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