東京の街で眺める景色は、いつも新鮮だ。1月11日。全国大学ラグビー選手権決勝に臨んだ天理大の取材で、国立競技場へ向かった。品川駅で新幹線を降り、JRや地下鉄を乗り継ぎながら、あらためて感じた。

「五輪が日本に来るんだなぁ…」

歩く道、電車を待つ駅で、必ず東京オリンピック(五輪)のエンブレムを見かける。裏を返せば大阪では「五輪」を身近に感じない。五輪に関わらない地域に住む人々の多くは、人ごとのように国民的行事を見つめていると思う。

開催都市は東京。膨大な費用を負担しており、東京中心の感覚は当然だ。だが、明らかな懸念がある。新型コロナウイルスの影響により、開催反対の声が世論の大多数を占める現状だ。

「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」。何度も聞いたフレーズに「どう考えても無理やん」という声を聞く。「世論」は東京に限らず全国民で成り立つ。コロナ禍で開催するための“引き出し”が見えなければ、当然の反応だ。

直近で「プランB」の好例があった。1月31日に行われた大阪国際女子マラソン。従来の公道ではなく、長居公園内を約15周するコースで開催された。大会組織委員会事務局は昨年10月に最悪の事態を想定。翌11月に周回コースも距離計測を行い、世界陸連から記録の公認を得た。今年1月の緊急事態宣言発令を受け、無観客での周回コースに変更。担当者は「『やめる、やめない』ではなく『どうやったらできるか』。選手は何カ月もかけて準備する。簡単に『中止』としたくなかった」と振り返った。

東京五輪開催に向け、水面下で検討されているプランはいくつもあると思う。簡単に世に出せないさまざまな事情があるのも察しがつく。だが、平常時と違うのは、情報を求めている相手がスポーツ好きだけでも、都民だけでもなく、全国民であり、大げさに言えば全世界の人々という点だ。

「どうやったらできるの?」。決定事項でなくてもいい。開催に向けての“引き出し”さえ見えない状況では、大多数の人の心と、五輪の距離は縮まらない。【大阪本社五輪担当 松本航】